本書は、グローバル化とデジタル化が加速するなかで、東アジアの大学が直面する国際化の動向と人材育成の課題・可能性を、実証研究と教育実践の両面から立体的に描き出すものである。留学、言語教育、職業教育という三つの柱を通じて、「誰が、どのような条件のもとで、どのように学び、成長しているのか」という問いに迫る。
第Ⅰ部では、まず中国大陸の大学を階層に分け、留学機会や留学先、学生の留学志向の違いを分析し、大学間での留学格差と「エリート留学」をめぐる神話の変容を明らかにする。ついで、中国の二本大学である濰坊学院を事例に、日本語学科卒業生の日本留学率がきわめて低い理由を、言語能力・経済状況・情報アクセス・適応不安・提携校不足などのボトルネックとして整理し、留学支援政策のあり方を具体的に検討する。
第Ⅱ部では、まずベトナムの高等教育機関における日本語教育の歴史と現状を概観。日本語専攻の拡大と人材ニーズの変化を跡づけ、課題も明らかにする。続く章では、台湾人日本語学習者を対象に、中国語との構造差や文化的慣習の違いが学習に与える影響を検討する。また、インドネシア・バリと日本のEFL学習者を比較し、英語学習動機に影響を及ぼす要因を明らかにする。さらに、交換留学生による共同調理場面での日本語使用に着目。文化的背景・経験を示しながら、互いに即興的に意味を構築しあう過程で生じる創造的な言語使用が生み出す効果を見る。
第Ⅲ部では、まず、日本の教員養成や職業教育を中心に、Society 5.0 や OECD ラーニング・コンパス2030などの枠組みを参照しつつ、VUCA時代に求められる資質・能力とICT・AI活用の方向性を整理する。続く章では、日本の専門学校・高専・専門職大学等の職業教育システムを概観したうえで、オンラインプラットフォームや協働学習アプローチを組み合わせた教育実践、さらにはインドネシアの土木工学教育におけるICT活用の事例を紹介し、実践的な人材育成モデルを提示する。
終章では、これら各章の知見を踏まえ、東アジアの高等教育に共通する課題と多様性を横断的に整理。留学機会の不平等や言語・文化能力の格差、デジタル技術へのアクセスの違いは、国や大学の境界を越えて複雑に絡み合っており、その克服が今後の人材育成を考えるうえでの鍵となる。また、言語教育や職業教育の現場における創造的実践は、単に「技能」を教えるにとどまらず、異文化理解や協働的問題解決力といった、グローバル社会を生きるうえで不可欠なコンピテンシーを育む営みとして再評価されるべきであることが示される。
本書は、東アジアの高等教育研究に携わる研究者や大学関係者だけでなく、国際教育・日本語教育・英語教育・職業教育に関心をもつ実務家や学生にとっても、多様なケーススタディと理論的枠組みを提供する。国境を越えた人材育成の協力や、大学・地域・産業界の連携を構想する際の、理論的かつ実務的なガイドブックとして活用できる一冊である。