本書は、天平宝字年間(757765)の写経・造営関係文書を整理・検討するなかで得られた八篇(第一・二・四七章、付論1・2)と、その延長上に生まれた三篇(第三・八章、別篇)をもとに構成したもので、それぞれの中で中心となる人物に焦点を当て、「Ⅰ 安都雄足」「Ⅱ 写経所をめぐる人々」「Ⅲ 下道主と上馬養」に区分して提示する。正倉院文書の大半を占める写経関係文書の緻密な整理・検討から、当時の実務官人たちの姿を鮮やかに描き出す。
[目次]
序章 正倉院文書研究の視覚と方法本書の梗概を通して
Ⅰ 安都雄足
第一章 造東大寺司主典安都雄足の「私経済」
第二章 天平宝字二年造東大寺司写経所の財政運用知識経写経所別当の銭運用を中心に
Ⅱ 写経所をめぐる人々
第三章 市原王と写経所舎人・「長官」・玄蕃頭時代の役割をめぐって
第四章 正倉院文書に見える「鳥の絵」と「封」写経所案主佐伯里足の交替実務をめぐって
付論1 天平宝字年間における経師・装?・校生の動向 第五章 正文に転用された反故文書
Ⅲ 下道主と上馬養
第六章 造石山寺所の帳簿筆跡の観察と記帳作業の検討
第七章 造石山寺所の帳簿に使用された反故文書
付論2 反故にされた万葉仮名文書
第八章 奉写御執経所・奉写一切経司関係文書の検討伝来の経緯をめぐって
〔別篇〕 日中比較研究と正倉院文書
あとがき
索引