「予算の価値はコントロールの手段にあるとはいえ、それは人間を抜きにしては存在しえない。予算は人によって作成され、人によって修正され、人によって達成されなければならないものだからである」(R. Beddingfield, 1969, p.54)
予算と人間との関係についてのこのようなプリミティブな問題認識は、今日では行動会計論という独立した会計研究のディメンションで論じられ、研究成果も豊富に蓄積されている。
しかし、それにもかかわらず、行動会計の豊富な研究成果が予算管理をはじめとした管理会計の基本的技術や手続に十分取り入れられているかというと疑問がある。
行動会計研究の豊かな成果とそれらがコンベンショナル・ウイズダムとして十分に吸収・同化されていない状況との間の落差へのこうした懐疑のうえに、管理会計理論なかでも予算管理論とアメリカ経営学の思想的潮流との交流過程において、予算管理論における人間要素の扱いが学説展開の中でどのように変遷してきたかが必ずしも十分に解明されていないことへの不充足感が加わり、それらに促されて本研究は、人間要素の扱いをめぐる予算管理学説の系譜を析出する形で進められてきた。
本書は二部構成からなっている。序章では全体の概観が与えられ、その詳細について第Ⅰ部では、予算管理にかんする先駆的な行動的諸研究が経営組織論および管理論の学説展開の影響を受け、それに応える形でいかに人間要素を吸収・同化していったかが明らかにされる。
第Ⅱ部では、行動科学をベースにして行動会計論という研究ディメンションが独立の研究領域として広く認められるようになった段階以降の予算管理研究の傾向が、参加型予算管理をめぐる諸研究と階層制組織におけるマネジメント・コントロールの手段としての諸研究との二つに大きく類別されて学説整理がなされる。
結章は、従来の機能主義的アプローチではそうした根源的な問題の一面しか捉えられず、全体像を理解するためには代替的なパースペクティブからのアプローチがさらに必要となるであろうとの認識から、予算研究の新しい動向を探るとともに、今後の研究の展望の意味を込めて提示している。
行動的予算管理研究の発展を扱った本書は、組織コントロールの仕組みとしての予算管理にたいする基本視角の延長上の研究成果をまとめたものである。
この点で、予算管理に期待される機能として、階層制組織における意思決定の統合的強化を図る統制ないし誘導機能と環境変化への計画的適応に関わる意思決定促進機能とが概念区分できるとすれば、本書は前者を扱ったものである。