本書の目的は、1990年代後半から現在までの、ドイツの会計国際化対応の現状と特徴を明らかにすることである。本書は、
(1) 1990年代後半以降に成立したドイツの4つの会計関連立法に関して、その内容を立法資料に依拠して分析した第2章~第7章
(2) ドイツ会計規準の欧州的側面に起因する先決的判決問題を、3つの判例に依拠して分析した第8章~第12章
の2つから構成される。また、その前後に、本書の導入部分である第1章と、ドイツとの対比において、わが国の会計制度の現況を考察した補章とが配置されている。
まず、(1)の部分では、資本調達容易化法、企業領域統制・透明化法、資本会社&Co.指令法、透明化・開示法という3つの会計関連立法をつぶさに分析している。そのことにより、ドイツが「国際的に認められた会計原則」準拠の連結決算書の免責条項、および民間の基準設定主体の設置条項を基点に、どのように会計の国際化対応を図ったのかが明らかになる。すなわち、4つの法律により施された制度的仕掛けは、国際化対応の場面を連結決算書レベルに限定し、個別決算書レベルは従来の枠組みを保持する二元的戦略にもとづくものであった。しかも、連結決算書と個別決算書の線引きと同時に、免責条項をめぐって、その適用対象企業に対する会計規制の差別化戦略が遂行されたことが解明される。
次に、(2)の部分では、EUの枠組みの中で生じるドイツの新たな会計国際化問題に焦点を当てている。すなわち、Tomberger判決を筆頭に、DE+ES判決、そしてBIAO判決へと連なる欧州裁判所の先決的判決問題に関する分析である。EUの会計指令を商法典に展開したことにより、ドイツの会計規準は欧州的な側面を有することになった。しかし、この欧州的側面に起因して、先決的判決問題が連結決算書の次元を超えて、いま、個別決算書領域を巻き込みながら進行している。本書では、こうした会計国際化のシビアな側面が書き出される。
以上、ドイツの会計国際化対応は、多分にアングロサクソン的要素を含んだ国際的な会計規範・基準を、漸次、商法典の枠組みのなかに吸収していくところに特徴がある。しかし、それは、対照的な2つの側面を提起する要因になっている。すなわち、資本調達容易化法を端緒とする一連の会計関連立法が、「国際的に認められた会計原則」に向けた二元的戦略を遂行する法基盤になったのに対して、同時に、ドイツ会計規準の欧州的側面が、EUの枠組みを再認識させる先決的判決問題を呼び起こしているということである。したがって、1990年代後半以降のドイツ会計制度をめぐる状況は、一方では、連結決算書レベルに収斂させた国際化戦略の遂行と、他方では、個別決算書レベルに波及する先決的判決問題の拡大とが相俟った、きわめて複雑な様相を見せてきたといえる。