ドイツ資本主義は、いちはやい独占形成、ヴァイマル共和国という民主国家の誕生、その後の最も反動的なナチス・ファシズム体制の成立という急変を経験するとともに二度の世界大戦をひきおこすまでに、特殊的な在り方をたどった。このようなドイツ資本主義の特殊的な発展が戦前の企業経営の中にどのように貫いているのか。すなわち、各国に共通する傾向性を示す重要な経営問題にみられるドイツ的な現象形態、その諸特徴が第二次大戦終結までの歴史的過程のなかにいかに貫徹しているのか。アメリカの経営方式の影響を受けながらも、どのような企業経営の独自的展開がみられることになったのか。そこでのドイツ的な経営のスタイルとは何か。そのことは、いかなる意義をもち、社会経済においてどのような帰結をもたらしたのか。また企業経営の特殊ドイツ的な展開は、同国の資本主義発展のあり方をいかに規定することになったのか。この時期の企業経営の展開は、第二次大戦後の時期にどのように受け継がれることになったのか。
本書では、これらの点を、早熟的な独占形成の抱える矛盾、第一次大戦の敗北の結果として誕生しながらもその存立の社会経済的基盤を十分にもちえなかったヴァイマル共和国の時期の経済構造、その帰結として誕生したナチス・ファシズム体制のもとでの特殊な経済機構との関連の中で明らかにしている。こうした問題の考察をとおして第二次大戦終結までの時期のドイツにおける企業経営の基本的諸特徴、意義と限界を解明している。本書はまた、今日的なグローバルな視点から、「ライン型資本主義」や「調整された市場経済」などと呼ばれるような、資本主義的市場化の限界に対する独自の「調整的機能」を組み込んだ第二次大戦後のドイツの資本主義モデルとそのもとでの企業経営の展開を考察する上での重要な基礎を提供している。
このような本書の研究は、つぎの点に特徴を持つ。ひとつには、特定の時期に考察の対象を限定することなく、独占形成期から第二次大戦終結までの時期を広くカバーすることによってこの時期の歴史像を提示していることである。いまひとつには、企業経営の特定の領域やテーマに限定することなく、企業集中、企業構造、管理システム、生産システム、組織構造、経営戦略などの重要な問題領域全般に対象を広げて包括的に分析し、企業経営の全体構造および個別分野の管理制度の内面的な相互関連性を体系的に解明している点である。また本書は経営学の立場からの研究ではあるが、ドイツ経営史という歴史的研究としての性格も同時に持つことから、主要産業の代表的企業の文書館やドイツ連邦文書館、アメリカ国立公文書館などにおいて収集した多くの一次資料を駆使して分析していることである。