鹿児島に生まれ、宮崎県延岡市という近隣に神話との関わりの深い地に住まう
ことになった著者。そのような環境の中、古里鹿児島、時には熊本、大分など、
各地の豊かな自然や歴史に触れ、折々を短歌にまとめた第一歌集。
宮崎、そして鹿児島という神話と物語の国にあって、本屋敏郎さんのような、
落ち着いて暖かく、知的で批評精神も忘れない、そういう歌人が時を超えるよう
に歌を作り続けていることを、この歌集を読んだ後も、折りに触れて思い出し、
また幾度もこの本を開きたいものである。
坂井修一(解説より)
【歌集より】
隠れ蓑風に捲られ見えしごと蜘蛛の糸ふと陽にきらめきぬ
余所者は来るなとニニギ威すごと槵觸峯に蟬鳴きしきる
戦いの明け暮れなりしや山幸の眠りを乱し戦闘機飛ぶ
冬枯れの荒野に優しき陽の降りて兎の足跡温めている
牧水も聞きし城山の鐘の音 鐘守交代のニュース伝わる
捨てたるに非ず捨てられたるに非ず帰れば野辺の花みな優し