本書はテュービンゲン大学で2008年と2009年に行われたシェリング講義の主要部分の翻訳である。
著者のフランクはドイツ観念論やドイツロマン主義の研究で知られているが,実際には自己意識論,分析哲学,解釈学,文学論,さらには最近のフランス哲学などにも造詣が深く,広い関心を踏まえた貴重な講義である。
彼の講義にはいくつかの主題がある。まず意識的自我では処理できない質料的な基礎を,「絶対的自我」の地平のうちに見出す。この実在論的原理から存在論的な実在論や実存主義への道が開かれる。
次に「精神と自然の同一性のテーゼ」である。それは「述定の同一性の理論」と結び付けられており,現代の心身同一性論とつながる可能性がある。
さらにフランクはドイツ観念論の影響史の観点から,シェリングが「ドイツ観念論の最も統合的な像」を形成したとして,シェリングの著作を学ぶことにより,フィヒテとヘーゲルの本質と出合えることを示す。
初期には「観念論の輝かしい擁護者」として登場したシェリングだが,後期になると「観念論」からの「出口」を模索し見出す。その結果,フォイエルバッハ,ルーゲ,マルクス,バクーニン,キルケゴールらの世代に影響を与えた。
シェリングは「無制約者を人間の主観(自我)のうちで考える」という「一つの思想」を初期から後期にかけて展開した。その明確化の過程は本書の主題に即して考察される。
本講義を通してシェリングのみならずドイツ観念論の意義を知る上でも,読者は貴重な示唆を与えられるに違いない。