本書は『フッサール全集 第11巻』の待望の全訳である。
「現象学とは意識の現象学」と言われる。しかし「意識の現象学」は,受動的綜合を基盤にして,身体に生きて働く「無意識」の現象学の広大な領域によって支えられている。
受動的綜合の中軸にある発生的現象学における志向分析の「時間と連合と原創設」を通して,基本構造である「受動的発生における受動的綜合と能動的発生における能動的綜合」の階層構造が明らかにされる。
そして「能動的綜合」に対応する「受動的綜合」の詳細な分析により,時間と空間の発生を解明し,「志向の発生分析」をベースにフッサール現象学の全体像を提示した。
受動的綜合の概念は,精神病理学,神経現象学,リハビリテーション学,経営学,スポーツ運動学など,多彩な学際的分野において新たな発想を与えてきた。
学問と文化の客観性を基礎づける相互主観性は,言語以前の母子の間に生じる情動的コミュニケーションから始まり,自己意識が生成した後の能動的綜合による能動的相互主観性から形成される言語的コミュニケーションで成立する。
能動的綜合における本質直観を得るために,「無意識」における潜在的志向性による受動的綜合が決定的な役割を果たしていることを考察し,受動的相互主観性と能動的相互主観性という相互主観性の構造を通して現象学の理論的根拠づけが可能となった。
従来の志向性の現象学を,新たに全体的な視点から再検討するための基本文献となろう。
凡例
序論 知覚における自己能与
第Ⅰ部 様相化
第1章 否定の様相
第2章 疑念の様相
第3章 可能性の様相
第4章 受動的様相化および能動的様相化
第Ⅱ部 明証性
第1章 充実の構造について
第2章 受動的志向とその確証様式
第3章 経験の究極性の問題
第Ⅲ部 連合
第1章 受動的綜合の原現象と秩序様式
第2章 触発の現象
第3章 触発的覚起の能力と再生産的連合
第4章 予期の現象
第Ⅳ部 意識流の《それ自体》
第1章 再想起の領域における仮象
第2章 内在的過去性のシステムの真なる存在
第3章 意識の未来の真なる存在の問題
最終考察
補足テキスト
訳者解説
訳者あとがき
索引