ぼくは手紙を書く

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ぼくは手紙を書く

名刺も手帳も財布も
万年筆も本もノートも
ポケットの中に
カバンの中にきちんとある

鏡の前に立てば
鏡の中にはぼくが立っている

はち切れるほど膨らんでいたポケットは萎んでしまい
手にあまるほど重かったカバンは軽くなって
なによりもしなやかだった青年の筋肉は固くなり
みずみずしかった少年の皮膚は乾燥し
髪は白く
それなのに失くしたものがひとつもないなんて

ポケットを裏返しカバンをひっくり返せば
手帳はあちこち痛み名刺はわずか数枚
本は紙魚に汚れ財布は小銭ばかり
ノートの文字はぼやけて
万年筆のインクも残り少ない

鏡の隅まで指で磨けば
鏡の奥にはぼくの抜け殻が蹲っている

やはり多くのものを少しずつ失くしてきたのだ
これまでの道の峠や十字路に

ぼくは手紙を書く
間欠泉の衝動に突き上げられて
手帳のメモ
ノートの文字を頼りに
インクの薄い万年筆で
便箋が文字でびっしり埋まるまで
ぼくは手紙を書く
鏡の奥に蹲っているぼくの抜け殻に宛てて

朝になれば
番地のない手紙は
届けようもなく
机の上に重ねられていくばかりである
しかし手紙を書き終えれば
ぼくのポケットには希望が煌めき
ぼくのカバンには未来が灯って
蹲っているぼくの抜け殻には新鮮な血が脈打ってくる

今ではむしろ
手紙を書くために
ここまで来
ここまで来るために
多くのものを少しずつ失くしてきたように思えるのだ
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