NHK朝ドラ「ばけばけ」のヒロインのモデル小泉セツ――松江の没落士族の娘として生まれた彼女が漂泊の作家ラフカデオ・ハーンと出会い、その運命は大きく変わる。二人三脚で歩んだ愛ひとすじの物語!!
(本文より)
どうすれば養父母、養祖父、実母を養って行けるのか。セツはお堀端を歩いていた。
あの日、セツという赤子が養家に運ばれて行った時と同じように、お堀は美しい水をたたえていた。
松江城はすでに取りこわされていた。そして士族達は没落して行ったが、町は変らず美しかった。
セツは絶望と不安に苛れながら、歩いていた。何ひとつ思案は浮かんで来なかったが、ただ歩いていた。
その時、昔からの知り合いのお信に会った。お信の家も没落士族で苦労をしていた。そのお信の口から思いがけない話を聞いた。
自分は松江に赴任して来た外国人の家で女中をしているとお信は言った。びっくりするほど高額の給金が頂けるのだが、松江の女達は外人を恐れて、行きたがらないのだと言う。
お信はその時、ヘルンというアメリカ人の英語教師の家で働いていると言った。住み込みだが、時々暇がもらえる。
「何と言っても給料が高い。私の家はそれで救われたの」
と言う。
「もう一人、女中を欲しがってるけど、みなこわがって、尻ごみしている。せっちゃんなら、大丈夫よネ」
と信は言ったが・・・・