海外航路や上海租界などでの楽団演奏はあったが、ジャズという音楽が日本で本格的に流行し定着するのは、1945年の敗戦後のことである。ジャズを持ち込んだのはアメリカ占領軍だが、演奏者は日本人の「にわかジャズミュージシャン」。彼らはアメリカ軍専用のダンスホールや各地キャンプ(基地)で米兵を慰めるためにジャズを奏でた。サンフランシスコ講和条約から朝鮮戦争期には日本人ジャズミュージシャンの演奏技術が飛躍的に向上し、彼らは高給取りとなっていった。
朝鮮戦争の休戦で米兵が本国に帰還したり、米軍基地が占領下の沖縄に集中するようになると、仕事を失ったジャズミュージシャンは芸能界やジャズ喫茶などで演奏するようになった。京都三条にあった高級ナイトクラブ「ベラミ」の前身もジャズ喫茶だった。
本書はその「ベラミ」の盛衰とバンドマスター・野力久良の一生を導きの糸として、ジャズやポップスを中心とした音楽の戦後史を社会運動的視点から描く。朝ドラ「カムカム」や「ブギウギ」でジャズに関心を抱いた方たちにもお薦めする一冊。