人的資本経営への関心が高まる中、多くの企業が採用強化や人材育成、エンゲージメント向上を目指して、人事制度や評価制度の見直しに取り組んでいます。しかし、「採用しても定着しない」「研修をしても行動が変わらない」「新しい制度を導入しても組織が活性化しない」といった悩みは後を絶ちません。
本書は、その原因が制度そのものではなく、「働く環境」にあるという新たな視点を提示します。
企業は制度によって動いているように見えますが、実際には人は環境によって行動を左右されています。自律性を求めながら監視型のレイアウトを続けている。部門間連携を掲げながら部署ごとに分断された空間を維持している。挑戦を推奨しながら失敗しづらい空気が漂っている――。こうした制度と環境の矛盾が、組織変革を阻害し、人材流出や生産性低下を招いているのです。
本書では、東京大学大学院との共同研究による知見と、数百社に及ぶ企業支援の実例をもとに、「働く環境」が人の心理や行動、組織文化にどのような影響を与えるのかを体系的に解説します。採用競争力の向上、若手人材の定着、エンゲージメント向上、イノベーション創出、ハイブリッドワークへの対応など、現代企業が抱えるさまざまな課題に対して、働く環境という切り口から具体的な解決策を提示します。
また、オフィスを単なる施設やコストではなく、「人事戦略を実現するための経営資産」と位置づけ、人事・総務・経営が連携しながら組織文化を物理的に実装する方法を紹介。ABW(Activity Based Working)やフリーアドレス、コミュニケーションを促進する空間設計など、先進企業の取り組みも交えながら解説しています。
コロナ禍を経て、「なぜ会社に行くのか」が問われる時代になりました。これからの働く環境は、社員を出社させるための場所ではなく、「行きたい」「働きたい」と思える価値を提供する場でなければなりません。偶発的な出会いや学び、組織への帰属意識、企業文化の継承といった、オンラインでは代替できない価値をいかに創出するかが企業競争力を左右します。
人的資本経営を成功させる最後の鍵は、制度改革だけではありません。制度と働く環境を一体で設計し、人が自然と成長し、協働し、挑戦したくなる舞台をつくることです。本書は、経営者、人事責任者、総務担当者、組織変革に携わるすべての人に向けて、「人が動く組織」のつくり方を示す実践的な一冊です。