サント=ブーヴ賞を受賞したフランスの文学研究者マルク・ソリアノの記念碑的学術書の全訳。
「赤ずきんちゃん」「眠れる森の美女」「長靴を履いた猫」などを収めたシャルル・ペローの『昔話集』は、世界でもっとも広く知られたフランス語のテキストでありながら、その成立事情には多くの謎が残されてきた。物語の真の作者はペロー本人か、それとも息子ダルマンクールか。口承の民話はいかにして文学作品へと昇華されたのか。著者ソリアノは、ペローの昔話を単なる児童文学としてではなく、文献学・民俗学・社会学・精神分析といった人文諸科学を総動員して解明すべき「謎」として捉え直した。
上巻では、作者をめぐる論争史を精緻に検証したうえで、各昔話を一篇ずつ分析。赤ずきんの「赤い頭巾」やサンドリヨンの「ガラスの靴」といった象徴的モチーフが、読者の心をつかむためのペロー独自の技巧であったことを明らかにする。また、17世紀末フランスの飢饉や農民反乱といった過酷な社会背景が物語にいかに反映されているかも浮き彫りにされる。巻末にはペロー自身の『回想録』と略年譜を収録。
【版元による解説 (民話の森)】
シャルル・ペローは不思議な作家です。彼の昔話集に収められた「赤ずきん」「眠れる森の美女」「サンドリヨン(シンデレラ)」などの物語は、絵本やテーマパークでおなじみで大人も子供も誰でも知っているのに、その作者のことは誰も知らないのです。
実は、ペローは十七世紀のルイ十四世の時代にコルベールに仕えた宮廷人でしたが、パリ生まれの典型的なブルジョワでした。彼はアカデミー・フランセーズの会員であり、ボワローやラシーヌとの新旧論争では新しい時代を擁護し、その哲学はヴォルテールやダランベールの百科全書に受け継がれた進歩的知識人の先駆けでした。
著者のソリアノは、サルトルも学んだエコール・ノルマルを首席で卒業した秀才でしたが、児童文学に深い関心を抱き、民俗学、人類学、歴史学、社会学、経済学、そして精神分析学を駆使して、ペロー昔話の研究に着手しました。
上巻第一部では十七世紀の文芸サロンに集う人たちの間で妖精物語がどのようにして生まれたかを明らかにし、第二部では民俗学者ポール・ドラリュの研究を踏まえて、ペロー昔話集の十一の話を丹念に分析しています。
以上のようなペローの足跡と彼の語った昔話の理解を助けるために、上巻には彼の「回想録」と略年譜が訳出されています。