サント=ブーヴ賞を受賞したフランスの文学研究者、マルク・ソリアノによる記念碑的学術書の全訳。
「赤ずきんちゃん」「眠れる森の美女」「長靴を履いた猫」などを収めたシャルル・ペロー『昔話集』は、世界でもっとも広く知られたフランス語テキストでありながら、その成立事情には多くの謎が残されてきた。本書は、ペロー昔話を単なる児童文学としてではなく、文献学・民俗学・社会学・精神分析といった人文諸科学の視点から再検討する。
下巻では、ルイ十四世治世下で官僚として活動したペローの社会的実像に焦点を当て、新旧論争や教育観が昔話の形成に果たした役割を明らかにする。さらに、精神分析的手法を用いて、「末子」「身代わり」「死と再生」といった反復モチーフの意味を読み解き、著者名をめぐる論争や出版史的問題にも検討を加える。最終部では、知識人の教養と民衆の伝承が交差する地点としてのペロー昔話の意義を総括する。
【版元による解説 (民話の森)】
本巻後半では、作者ペローの生涯と社会的立場を軸に、昔話集の成立背景が多角的に検討されます。
第三部では、典型的なブルジョワであるペロー家の人々が、自分たちの社会的な地位を守るためにいかに教育に力を注ぎ、ソルボンヌ大学を中心とした宗教論争に関わったかを記述します。
ペローは修了寸前の学業を放棄し、独学で勉強を続けてオルレアンで弁護士の資格を手に入れます。
そして同じくブルジョワ出身のコルベールに仕え、ヴェルサイユやルーヴルの建設に力を尽くし、アカデミー・フランセーズの会員として改革を推進し、ボワローやラシーヌと対立して新旧論争で新しい時代を擁護した曲折が語られます。
第四部では一転してペローの心の内面に迫り、彼の抱えた心の傷(トラウマ)が昔話に与えた影響を明らかにしようと試みます。
最後の第五部はいわば「まとめ」で、昔話とは何か、それを語り伝えた民衆の役割とは何かが語られます。