さまざまな人との出会い、忘れがたい思い出──。美の高みにあるものにあこがれて学びつつ、人生の光と陰を生きてきた書家の、小説集・随筆集。
《季節に四季があるように、人とのかかわりも春夏秋冬とうつりゆき、過ぎてみればどんな景色も無駄ごとではなく、彩りはいろいろであって、光も陰も美しいのだと私は思っていました》(「光陰」より)
《朝日が輝いている。空気は引き締まっている。見慣れて懐かしい八ヶ岳の峯々が、凛として長い裾野を引き雪を頂いている。胸が熱くなって目が霞んだ。私は、山々に囲まれた深々としたこの信州に育てられたのだった》(「赤いセーター」より)
《諏訪大社秋宮の下で、菓子製造販売業「不二屋」を営む父……》(「父のおくりもの」より)
*不二屋の屋号は、中村不折の書。包装紙を描いたのは、棟方志功。
*中村汀女は、不二屋のために「朝時雨初霜遠くしのぶのみ」と詠んだ。