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リップグリップ・倉田シウマイの新書探検ナビ

No.2 クイズにヤラセがあってはいけないのか?

新書大好き芸人のリップグリップ・倉田シウマイさんによる、新書好きによる新書好きのための新書探検ナビ。新書を通して、新たな知的好奇心の扉を開いていく連載記事です。第2回のタイトルは、「クイズにヤラセがあってはいけないのか?」。小川哲さんの『君のクイズ』(朝日新聞出版)のテーマである「クイズのヤラセ問題」について、徳久倫康さんの『クイズの戦後史』(平凡社/平凡社新書)を通して読み解いていきます。

クイズ番組の決勝で、問題が一文字も読まれぬうちに対戦相手が正解し、優勝をさらわれる。 これは可能か、それともヤラセか。

小川哲『君のクイズ』はクイズ番組を舞台にした小説です。対戦相手の「ゼロ文字押し」で敗北したクイズプレイヤー・三島の視点で番組を振り返り、物語は進んでいきます。ボタンを押して正解するまでに、クイズプレイヤーの脳内でどのような思考が巡るのか。これが本作の大きな読みどころです。

決勝の第一問で三島は「深夜の馬鹿力」と正答します。「深夜の馬鹿力」は伊集院光がパーソナリティーを務めるラジオ番組で、三島は幼いころ兄が聴いていたことをきっかけに番組に出会います。その後、大学でクイズ研究会に所属した三島は、「深夜」に関する問題を作成するなかで「深夜の馬鹿力」に再会し、番組を聴くようになりました。そんな自身の経験から三島はクイズに正解したのです。

人生の出来事がクイズの答えになる。そう聞くと映画『スラムドッグ$ミリオネア』を想起する人も多いのではないでしょうか。過酷な過去を持つインドの青年が、人生で得た知識を駆使し国民的クイズ番組で億万長者になる映画です。

クイズによって人生が肯定される。そのテーマは『スラムドッグ$ミリオネア』と『君のクイズ』に共通しています。しかし『スラムドッグ$ミリオネア』では人生がクイズに集約されるのに対し、『君のクイズ』ではクイズが人生を拡張します。

君のクイズ
君のクイズ

君のクイズ

商品詳細

三島が「深夜の馬鹿力」を文字情報ではなく初めて聴取したのは、クイズを作問したときでした。この世に溢れる情報の全てを知ることはできずとも、三島はクイズを作るなかであらゆる情報に何度も触れ、人生の可能性を増やしました。クイズによって人生を豊かにする、それがクイズプレイヤーの生き方なのです。

最強のクイズプレイヤーが優勝する、とはならないのが『君のクイズ』の面白いところです。なぜなら舞台はクイズ番組。クイズはスポーツになり得ますが、クイズ番組には演出が入ります。

クイズは作問者の思惑と解答者の経験がぴったり一致しなければ成立しません。クイズが自分のために存在する「僕のクイズ」になるのか、対戦相手やその他の誰かのために存在する「君のクイズ」になるのかは、解答者だけでは決められません。作問者にいくらか委ねられているのです。

クイズは独占できない、という原理を三島は理解しています。それでも三島はヤラセの可能性を執拗に否定します。

ではなぜクイズにヤラセがあってはいけないのでしょうか。

小川哲は『君のクイズ』を執筆する際、二人の著名なクイズプレイヤーに助言を受けたことを明かしています。そのうちの一人、徳久倫康が日本におけるクイズの歴史を一冊の新書にまとめました。それが『クイズの戦後史 - 「話の泉」、「アメリカ横断ウルトラクイズ」からQuizKnockまで』(平凡社新書)です。

日本のクイズ文化を成熟させた番組を挙げるとしたら『アメリカ横断ウルトラクイズ』は欠かせません。ゴールのニューヨークを目指しクイズ解答者がアメリカを横断する番組は、アイドル的なクイズ王と数多くのクイズプレイヤーを生み出しました。

『ウルトラクイズ』に出演したい若者たちによって、全国の大学でクイズ研究会が発足し、オープン大会と呼ばれる誰でも参加できるクイズ大会が開催されるようになりました。その際、対策としてクイズの問題集が作られ、データベースとして共有されます。クイズ番組とは異なるアマチュアクイズ文化の誕生です。

そのデータベースの存在を前提として制作された番組が『頭脳王』です。大仰な肩書きを付けられた高学歴の出演者が、難問をスラスラと解答する様は視聴者を驚かせました。『頭脳王』が『君のクイズ』におけるクイズ番組像に影響を与えたことは言うまでもありません。

クイズ番組は常に日本のエンタメの中心に位置してきました。その起源は戦後まもなくNHKラジオで放送を開始した『話の泉』です。視聴者から送られてくる問題に知識人が制限時間10秒で答える番組でした。

クイズの戦後史
クイズの戦後史

クイズの戦後史

商品詳細

実は『話の泉』の誕生にはGHQが関わっています。戦後日本にフェアプレイ、自由競争、勤勉といった「アメリカ的価値観」を浸透させるため、GHQはクイズ番組の導入を助言しました。

また、クイズ番組は知識のもとに人を平等に扱います。例えば、家でクイズ番組を見ているとき、父親が間違え、母親や子供たちが正解するということはよくあります。このとき、家父長制の土台が簡単にゆらぐのです。GHQ は日本における天皇を頂点とした家制度を解体し、民主主義を広める役割をクイズ番組に期待したのでした。

つまり、日本におけるクイズはその始まりから平等を象徴する文化的な装置でした。そんなクイズを内面化した三島にとって、ヤラセというプレイヤー間の平等を崩す行為がクイズ内に存在してはいけなかったのです。

『君のクイズ』と『クイズの戦後史』はどちらもクイズの熱をこれでもかと伝えてきます。ぜひこの二冊を手に取ってあなたのクイズを見つけてみてください。

2026-06-15

PROFILE

倉田シウマイ

(リップグリップ)

マセキ芸能社のお笑い芸人。
京都大学出身。
2015年10月に相方の岩永とリップグリップを結成。
新書を紹介する個人YouTubeチャンネル「新書といっしょ」を運営するかたわら、お笑いライブや大学の講義で新書の魅力を広めている。

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