【序文】
先天性心疾患の罹患率は全生産児の約1%といわれており,2024 年の本邦の生産児数は約72 万人であることから,毎年約7,000 人の先天性心疾患患者が増加していると推定される.先天性心疾患児の生存率は,心臓血管外科治療の進歩により劇的に向上し,その90%が成人まで生存できるようになっている.そのため,現在では先天性心疾患患者は小児よりも成人患者のほうが多くなっており,2007 年時点で約40 万人の成人患者が存在すると報告されている.先天性心疾患のなかでも単純型の軽症例では,一般人口と同等の寿命が期待できる一方で,中等症,重症例では寿命が短く(生存期間中央値は中等症で75.4 歳,重症で53.3 歳),成人期での心不全や不整脈が問題となることが多い.
ここまでの説明で察していただけると思うが,先天性心疾患は成人心疾患のなかでも多数派を占める疾患群となっており,希少疾患ではなくcommon disease といわなくてはならないが,一方で専門性が高く,小児期の治療に不案内な成人循環器科にとってまだまだなじみ深いとはいい難い.そのため日常診療のなかでは戸惑いを感じることも多いのではないかと推察される.一方で,心臓中隔欠損症は成人先天性心疾患では最多であるが,小児期に診断されずに未閉鎖のままで生活し,成人期に診断される例が多い.健診での心雑音の精査や心エコーで偶然指摘され診断されることが多いが,高齢になって心不全や不整脈を発症してから見つかるケースも少なくない.より一般的な心房中隔欠損症ですら,早期診断に課題があることが示されており,成人科診療医が先天性心疾患により精通し,疾患の鑑別にあげることで診断,治療の向上が期待できるのではないかと考える.
本邦における成人先天性心疾患の診療は2010 年に日本成人先天性心疾患学会が発足し,循環器小児科,循環器内科,心臓血管外科,産科,麻酔科など多数の診療科が関わっており,診断・治療のみならず,小児から成人の移行期支援や患者さんとその家族に対する心理的,経済的そして社会的な側面を含めた包括的なサポートに至るまで体制の構築がなされている.また,成人先天性心疾患の診療体制・教育体制の強化を目的とした専門医制度の設立と専門医修練施設の認定が行われており,国民への疾患啓発ならびに一般診療医への橋渡しを担う人材育成に寄与している.成人先天性心疾患の患者数を考慮すれば,一般内科医が日常診療を担当する機会が多くなることは必定であり,内科医が平時の対応を行う必要がある.
今回の企画では成人先天性心疾患の現状と課題について,複数の専門家より解説いただき,読者の先生方が先天性心疾患に関する知識や情報を効率よく収集し,日常診療で役立てていただけることをねらいとした.本号が成人先天性心疾患診療の普及に寄与できれば幸甚である.
牧 尚孝
(自治医科大学附属さいたま医療センター循環器内科)
【目次】
[特集]
急増する患者を誰が診る?
成人先天性心疾患
企画:牧 尚孝
[Chapter 1]
成人先天性心疾患の診療の現状と課題
成人先天性心疾患総論 赤木禎治
先天性心疾患における本邦の移行期医療の現状 秋山直美・落合亮太
[Chapter 2]
成人先天性心疾患の診断・管理
経胸壁心エコー・経食道心エコー検査 小林智美・中西弘毅
心臓CT・心臓MRI検査 椎名由美
心臓カテーテル検査 齊藤暁人
日常生活指導 石北綾子
患者教育・心理的ケア 水野芳子
[Chapter 3]
成人先天性心疾患各論
心房中隔欠損 狩野実希
心室中隔欠損 堀添善尚 ほか
房室中隔欠損 石津智子
動脈管開存 矢崎 諭
成人Fallot四徴症患者の診断・管理および長期フォローアップ 梅井正彦
Ebstein病 兒玉祥彦
Fontan術後症候群 相馬 桂
修正大血管転位 田中修平 ほか
完全大血管転位 小板橋俊美
大動脈縮窄・離断 杉山 央
Marfan症候群 八木宏樹
[Chapter 4]
成人先天性心疾患の最新の治療
成人先天性心疾患と外科治療 成人期再手術を中心に 河田政明
心房中隔欠損症に対する経皮的カテーテル閉鎖術 浅野遼太郎 ほか
Fallot四徴症類縁疾患に対する経皮的肺動脈弁留置術の適応と手技 小暮智仁
成人先天性心疾患に対するカテーテル治療全般 土居秀基・犬塚 亮
成人先天性心疾患における心不全治療 常盤洋之
成人先天性心疾患における不整脈治療 長山友美・坂本和生
肺高血圧症治療 八尾厚史
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