特集 色素異常の多種多様
(久保 亮治 編集委員)
赤毛にそばかす,灰色から光の具合によっては緑色の瞳,というのが『赤毛のアン』の主人公アン・シャーリーの特徴である.その舞台がアイルランドであれば,人口の10%程度が赤毛ということなので特徴にはならなかったと思われるが,『赤毛のアン』の舞台はカナダのプリンス・エドワード島である.アンは孤児であるが,おそらくはMC1Rの有名なバリアント,p.R151C,p.R160W,またはp.D294Hのいずれかをヘテロ接合性にもつ両親からそれぞれバリアントを受け継いで,MC1Rバリアントを両アレルにもつことで,赤毛とそばかすの表現型になったものと思われる.とすると,彼女はリドカインの局所麻酔が効きにくい,痛みに敏感な肌をもっていたのではないかと思われる(Liem EB, et al:Anesthesiology 102:509,2005).そのような特徴を示唆する内容は,続編も含めて本作品に登場するのだろうか? 私は未読なので,どなたか教えていただければ幸甚である.
一方,彼女の瞳の色がMC1Rのバリアントだけで説明できるのか,瞳が茶色くならないOCA2のバリアントや,緑色の瞳に関わるTYRやSLC24A4のバリアントとの組み合わせなのか(Caucasianの子なので,これらのバリアントのいずれかをもっている可能性は高そうである)については判断がなかなかむずかしいところである.でも実は,彼女はそんなに孤独でもないのだ.ゴールデンレトリバーや赤毛のホルスタインなど,MC1Rのバリアントによる赤毛はさまざまな動物種でもみられるものだから.
さて,前置きが少々長くなってしまったが,本号ではさまざまな色素異常,色素沈着,色素脱失を取り上げていただいた.色素に関わる遺伝子は河野通浩先生の「総説 2」でも触れられているように総計500以上あり,さらに炎症などによって色素の濃さが変化することを考えると,色素異常の要因は無限にありそうである.「この遺伝子のバリアントによってこんな色素異常になりますよ」といわれても,そう簡単には納得いかないことも多くある.たとえばnevus spilusはHRASの体細胞バリアントによるものが多いが,ではなぜ茶色い斑の中に点々と黒色斑が存在するのか,茶色いところと黒いところは何が違うのか?と聞かれるとよくわからない.神経線維腫症に多発する雀卵斑様色素斑も,色素性痒疹にみられる網目状の色素沈着も,その形成メカニズムや模様を生み出すメカニズムはよくわかっていないのである.何か解き明かせそうな謎はないかいな?と思いながら,外来で患者さんの肌を眺める日々である.あなた,色を極めてみませんか?