【序文】
外来・病棟・在宅など場面を問わず,終末期医療の現場で患者や家族から「どうしたらよいですか?」 「先生の家族ならどうしますか?」と問われた経験をおもちの医療者は少なくないだろう.その問いに率直に答えようとすればするほど,医学的な判断よりもわれわれ医療者自身の個人としての価値観が反映された答えを口にしていることに否応なく気づかされる.
「人生の最終段階をどう生き,どう最期を迎えるか」という問いに向き合うとき,医学的な “正解” だけで考えることはできない.患者が歩んできた人生を知り,どのように医療を使うことで,最後までその人らしい生活や関係性の物語が続くか,患者や家族とともに模索することが,医療者の大切な役割である.しかし,患者や家族から “正解” の提示を求められたり,医療者自身が “正解” を追求したりすることによって葛藤を抱く場面も少なくない.
本特集では前半で,終末期医療における基本的な医学的判断やケアの要点を整理したうえで,医療・介護・地域の資源をどのように活用し,チームとして患者と家族を支えていくかを考える.後半では,終末期を巡る課題が医療の枠に留まらず,社会や文化のあり方と深く結びついていることに目を向けたい.医学以外の分野の専門家としても活躍されている執筆者の方々から,人生の最終盤に向き合う多様な視点を提供していただき,終末期医療をより広い文脈で捉え直すことを目指している.
卒前・卒後教育を通じて,医学的正解に素早くたどり着き,正しい医療を患者に提供して命を救うための研鑽を積んできたわれわれ医療者にとって,死に向かう患者との向き合いという終末期医療の現場は,正解のない問いに向き合い続ける覚悟が問われる場面である.本企画が,読者の皆様が明日から出会う患者や家族と向き合う際に思考を巡らせる小さな手がかりとなれば,企画者としてこれに勝る喜びはない.
なお,「終末期医療」は厚生労働省により「人生の最終段階における医療」と呼称が変更されているが,本特集では冗長になることを避け,読者の皆様にとって理解しやすくすることを目的として,「終末期医療」として用語を統一している.
水野慎大
(医療法人社団焔 おうちにかえろう。病院)