フランクフルト学派を代表するテオドール・W・アドルノ(1903-69年)は哲学や社会学から社会批評に至る幅広い領域で活動したが、中でも重要な主題が「美学」だった。しかし、その一般理論を読むことができる著作は『美の理論』(1970年)だけであり、これはアドルノ特有の晦渋な文章であることに加え、未完のまま遺された膨大な草稿を編集して公刊されたという事情も加わって、理論の全容は容易に理解できない状態が続いていたと言わざるをえない。
そのような状況の中、1958年から59年に行われた「美学講義」のテープ起こしを基にした講義録が遺稿全集の中に収録された。本書はその全訳である。一読してわかるように、講義でのアドルノの語り口は懇切丁寧で、実にわかりやすい。本書の全訳が実現したことで、アドルノの重要な理論に日本語で容易にアクセスできるようになった。
[講義の概要]
第1回 状 況/今日における哲学的美学の可能性/カントにおける哲学と美学の関連 ほか
第2回 マニュアルではない/個人主義的な先入観/天分 ほか
第3回 自然美の移ろいやすさ/自然美のモデル性格/アウラ ほか
第4回 美的仮象という特殊領域/欲求のタブー/昇華 ほか
第5回 現実世界からの芸術の分離/遊戯と仮象/「今ひとたびの世界」 ほか
第6回 芸術は破壊されたものだけを表現へともたらすのか/肉体の再興/最も進歩した芸術からの出発 ほか
第7回 自然は歴史的/構成と形式/創造者性の批判 ほか
第8回 意味の危機(継続)/傷つき損なわれた自然を語り出させる/疎外の表現 ほか
第9回 美についてのプラトンの教説/『パイドロス』解釈への導入/熱狂 ほか
第10回 『パイドロス』解釈の続き/美の逆説/美の似像 ほか
第11回 プラトンにおける存在論と弁証法/美と芸術の関係/醜という契機 ほか
第12回 これまでのまとめ/芸術享受/地元の人間 ほか
第13回 省察的な共遂行/美的な愚かさ/翻訳、注釈、批評 ほか
第14回 精神的内実/構造連関/力の場 ほか
第15回 芸術作品の規定の修正/疎外/造形芸術における客観への関係 ほか
第16回 美と真/自然主義/表現の真理 ほか
第17回 美学における主観主義と客観主義/ヘーゲルの趣味批判/耽美家の観相学 ほか
第18回 美的主観主義の批判/心理学的美学の批判/方法論 ほか
第19回 前回のまとめ/「疲れたビジネスマンのためのショー」/概念なしの総合 ほか
第20回 これまでのまとめ/新芸術に付いていけない人たちの恨み/半教養 ほか
第21回 真理の再建/諸契機の全体性における理念/「事柄によって完全に満たされること」 ほか