私たちは何に依って善と悪を判断することができるのか。神や道徳や一般意志を拒み、ひとり〈正しさ〉を自由の可能性へと開いたハンナ・アーレント。社会学的想像力との共鳴のなかで、世界的な戦火の時代に、あらためてその強靭な思考の核心をつかみだす。
【本書「はじめに」より】
20世紀を生きたハンナ・アーレントのテクストを読み解き、その思考の強靱な一貫性を示すとともに、社会学知との共鳴を通じて、彼女の思考を「純粋政治批判(Kritik der reinen Politik)」として描き出す。もっとも簡潔にあらわすなら、本書の試みはこの一文に要約される。とはいえ、急いで注釈を入れておきたい。本書で目指したのは、社会学や社会理論の伝統的な問題構制に沿うよう、アーレントを──いかなる意味においても──恣意的に読みかえたり改変したり応用したりすることではない。あるいは、アーレントを通じてなにか社会学に資するような有益な知見をもたらそうという意図もない。ただ単純に、アーレントの残したテクスト群の有機的なつながりとその核心にあるものを、既存の社会学知の枠組みを用いて、それ自体において理解しようとする試みである。