EUでビッグテックが生まれないのはなぜか?
イノベーションを阻害する真因を、EU規制の第一人者が解明
本書は、EUの規制力に関する第一人者である原著者が、「デジタル経済のより厳格な規制は必然的にイノベーションを損ない、技術進歩を妨げる」という一般的な見解に異議を唱えるものです。
この見解はテック業界によって強く主張されており、繁栄する米国のテック経済が自由市場への断固たるコミットメントと結びつけられる米国の公共議論を形作ってきました。米国の立法者も伝統的にこの考え方を受け入れており、これがテック業界の規制にこれまで慎重だった理由です。これとは対照的に、EUはデジタル権利や公正といった欧州的価値観に基づき、データプライバシー、独占禁止法、コンテンツ管理などを含む厳格なデジタル規制によってテック経済の発展を方向づける別の道を選択してきました。EUの批判者によれば、この広範なテック規制はイノベーションの犠牲の上に成り立っており、テック企業の育成や米中との競争ができない理由だとされています。
こうした議論がいっそう切迫したものとなっているのが、昨今のAIをめぐる急速な状況変化です。ローマ法王によるAIの倫理的リスクへの警鐘や、Anthropicが開発した高度なAIモデル「Mythos」が世界に与えた衝撃を受け、「AIを人類がいかに制御すべきか。またそのためにどのようなレギュレーションを整備すべきか」という問いへの関心が、国際社会においてかつてなく高まっています。テック規制のあり方をめぐる本書の議論は、まさにこうした時代の要請に答えるものです。
本書は、デジタル規制と技術進歩の関係は、これまでの公共の議論や米国の立法者、テック企業、そして多くの学者が示唆してきたよりもはるかに複雑であると論じます。その観点から、米国とEUの間に存在する現在の技術格差を、米国法の寛容さや欧州デジタル規制の厳格さに帰するべきではないと著者は語ります。米国のテック企業が世界的な地位を築き上げるに至った、米国の法的・技術的エコシステムにおける、より根本的な特徴こそが重要であり、そしてEUはこれらをいまだ再現できていないといいます。
テック規制とイノベーションへの負の影響という通念上の関係を切り離すことで、デジタル規制のコストと便益に関する学術的議論をより生産的なものへと発展させています。また、技術政策を検討する政府に対し、「規制か、それともイノベーションか」という誤った二者択一ではなく、テック企業がイノベーションを続け、デジタル経済および社会が発展するために必要な、より広範な法的・制度的改革へと目を向けるよう促します。
原著者の論文のほか、編著者との新規対談や、論文を補足するための解説文も収録。特に企業でAIを用いて変革を推進する経営者、役員、事業部長など中心として、最新の状況に対応するために示唆に富む一冊です。