コンピューティング技術が生成AIの登場により、大きな変貌を遂げようとしている。「光電融合」と呼ばれる技術が、コンピューターの心臓部である半導体チップのすぐ隣にまで入ってきた。データ伝送の一部を電気から光に置き換えることで、AI時代の電力危機を救う一手とする。
本書は光電融合の現在と将来を、4つのテーマで解説する。日経BPの技術専門メディア「日経クロステック」「日経エレクトロニクス」の専門記者2人が、光電融合分野をけん引する国内外の企業や研究者、行政担当者に徹底取材した内容をまとめた。第1章は市場動向、第2章は中核技術、第3章は主要プレーヤー分析、第4章は部素材について解説する。
AIの演算を担うデータセンターは、1つの施設で数十MWもの電力を消費するようになった。一般家庭では1万世帯以上の電力に相当する。米国ではAIデータセンターや暗号通貨のマイニングに膨大な電力を要する影響で、一般家庭の電気代が上がった。コンサルティング大手の米ICFは、2030年までに米国の電気代は最大4割高くなると予想する。データセンターの建設が相次ぐ日本も、同様の問題に直面する懸念がある。
データセンターを運営する企業や半導体大手が、こうした電力問題の解決策として期待するのが光電融合だ。例えば、AIの演算を担うGPU同士を光で結ぶ。日本ではNTTグループが光電融合を次世代通信基盤「IOWN」の中核技術と位置づけ、データセンターで使われる電力を現在の100分の1に抑えることを目指す。
世界での開発競争を見渡すと、先行するのはブロードコムやエヌビディアといった米国の半導体大手だ。日本企業はNTTグループのほか、部素材メーカーが高い存在感を示す。光電融合向けのレーザー光源やパッケージ基板、光導波路などを大手メーカーに納入している。
高市早苗首相は2025年7月の所信表明演説で、「光電融合技術などによる徹底した省エネ」を主要政策の1つに掲げた。経済産業省は先端半導体の受託生産を目指すラピダスの支援と並び、半導体戦略の中核の1つに光電融合を位置づけた。
「技術が十分成熟していないのに製品を納めなければならないほどすさまじい」――。日本のある部素材メーカーの幹部は、光電融合市場の立ち上がりの速さをこう表現する。
AI社会の支えとなる光電融合のブームは、しばらく止みそうにない。その覇権が誰の手に渡り、どの技術がデファクトスタンダード(事実上の標準)になるか。それを見通すことは、AIに代表されるテクノロジー分野のこれからの勢力図を見極める上で重要なヒントを与えてくれるはずだ。