どうしても書き残したいという熱烈な意思が、新しい表現を生み出す。
10世紀後半から14世紀中葉にかけて、女性作者たちは、自己を素材にして多彩な作品を残した。
彼女たちは、限られた時空で何を信じ、何に価値を見出し、置かれた状況と自己をどのように捉え、どのように生きたのか。仮名日記文学はその自己表象の一つである。
個々の作品だけではなく、中古と中世を区切るのではなく、平安期から南北朝にかけて続いたひとつのジャンルとして捉え、仮名日記文学に向き合う。
【文学史上、同じ現象は二度と繰り返されない。類似点や共通項はあっても、それぞれの時代のジャンルはきわめて独自である。ひとつのジャンルの生成と消滅は、その背景である政治・社会・制度・文化体系に密接に関連している。同じ社会構造・文化構造も再現されることはない。ひとりの人間の自我構造も、生きた時代の文化と制度に規定される。限られた時空で何を信じ、何に価値を見出し、置かれた状況と自己をどのように捉え、どのように生きたか。仮名日記文学はその自我表象のひとつである。
個々の作品だけではなく、また、中古と中世を区切るのではなく、平安期から南北朝期にかけて続いたひとつのジャンルとして捉え、向き合う必要性を痛感する。
本書では、王朝女性たちの生きた時空、制度、背景に培われた自己認識、その表象としての仮名日記文学を論じる。……はじめにより】