図説 ハンガリーの歴史 増補改訂版

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9世紀にマジャル人が移動して定住したカルパティア盆地は、東からも西からも人々の交流が活発なところであった。そこに国家を建設したマジャル人はやがてさまざまな人々と交わって、ハンガリー人と呼ぶほうが適切な集団をなすようになった。彼らは13世紀にはアドリア海にいたる大版図をなしたが、16世紀にはオスマン帝国によって国土を三分割され、18世紀にはハプスブルク帝国の支配下に入り、第一次世界大戦後には国土を三分の一に縮小された。そして1948~89年に社会主義体制を経験したのち、2004年にはEUに加盟して新たな道を模索している。
このように変転するハンガリーの歴史は、19世紀後半以来、古代にまでさかのぼってハンガリー民族(国民)の歴史として描かれてきた。
社会主義時代にもそうであった。だが、このようなナショナル・ヒストリーを乗り越える必要性が近年叫ばれつつある。ところがそういう通史を書くことは実際には難しい仕事である。
本書では、二つの視角を採用してみた。一つは、なるべく歴史をそれぞれの時代に生活する人々の観点から記述することである。 ナショナル・ヒストリーはほとんどが支配者の歴史であるから、このような見方によってそれを相対化することができるはずである。残念ながら、種々の理由から、これを一貫して行うことはできなかった。しかし、たとえば、支配者や支配秩序の記述を詳しくする代わりに、農民の実態を書くという選択を各所において行ってみた。 二つには、 国家の領土的広がりは時々の国際的関係のなかで変化してきていて、「固有」の領土というものは歴史的には固定できないのだという視角を入れることである。これは意外に難しく、たとえばトリアノン条約を批判的に書くと、ハンガリーのナショナリズムに貢献してしまう恐れがあるのである。
EU加盟後、ハンガリー国内の格差は拡大し、下層の国民からの不満は根深い。ハンガリーの歴史が安定していたのは、下層を安定させたときなのである。 それをナショナリズムでそらす動きは歴史に学ばない方向である。2011年4月に国会で採択された基本法(憲法)」は国名を「ハンガリー共和国」から「ハンガリー国」に改訂し、 ハンガリー人の国家であることを改めて強調した(これは2012年1月1日に発効した)。ヨーロッパ世界全体の中でのハンガリーの受け入れられかたに注意していかねばならない。
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