情報幾何学が誕生するきっかけの一つは統計的推定の漸近理論にあった。漸近理論とは、データの個数が大きくなったときにどのようなことが成り立つかを調べる理論のことである。この理論に現れる正則条件と呼ばれるものをよく観察すると、情報幾何学の基本要素である多様体の定義が浮かび上がってくる。本書ではこの点を押さえることを第一の目標とした上で、副題にある「推定と予測の漸近理論」を構築していく。
推定の漸近理論のうち、特に平均二乗誤差の漸近展開は、情報幾何の黎明となったEfronやAmariの研究の主題である。この結果を理解するために必要となる幾何学の用語や概念を、関連する統計学のトピックとともに解説する。
もう一つのテーマである予測の漸近理論については、真の分布が統計モデルの中にあることが分かっているという状況であっても、あえてモデルから外れた予測をした方が真の分布に近づくことができる、というKomakiの定理を証明する。ここに統計モデルの幾何学的性質が関係してくる。そしてベイズ予測分布はこの意味で優れた予測分布になっている。
他書を頼らずとも読み進められるよう、必要な事項はなるべく自己完結的になるよう構成されている。想定している読者は、大学の微分積分と線形代数をある程度学んだことがある方である。