本書は、『遺教経(ゆいきょうぎょう)』(1巻。大乗経典とみられ、鳩摩羅什による漢訳のみ伝わり、サンスクリット本・チベット本は未発見)の現代語訳と解説からなるものです(巻末に原漢文を掲載)。正式な経名は、『仏垂般涅槃略説教誡経』といいます。
この『遺教経』は大乗涅槃経系経典に分類され、「お釈迦様が入滅に臨んで語った最後の教え」という場面設定で叙述されています。その「最後の教え」の特徴は、パーリ語の経典でも説かれる「八大人覚(はちだいにんがく)」(仏教者が体得すべき8つのこと――少欲・知足・寂静・正念・正定・精進・正慧・不戯論)を丁寧に説くところにあります。この「八大人覚」は、「八正道」よりも具体的・実践的であり、仏教者にとっての道しるべとなるものです。
お釈迦様の時代も現代も、わたしたち人間にとって、この娑婆世界を生きていく中には、つらいことや苦しいことを避けることはできません。それでも、八大人覚を少しずつでも実践していくことで、生きていくことができると『遺教経』は教えています。
その八大人覚を、わたしたちはどのように実践していけば良いのか――。かつて社会人の経験もあり、現在は禅寺の住職を務め、仏教学の研究者でもある著者が、時に自らの体験を繙きながら丁寧に解説します。