人は発話する際,何気なくことばを話していますが,その際には,音声器官と呼ばれる肺から喉,舌,顎,唇などの臓器を非常に複雑にコントロールして音声を生み出しています.本書では,これらの音声器官がどのように音をコントロールしているのかについて,調音運動(舌や唇などによる子音や母音を作り出す動作)と,声帯振動による発声機構に分けて,詳しく解説していきます.
調音運動の計測については,2026年現在,調音音声学で主流となってきている超音波画像法とリアルタイムMRI(rtMRI)について,解析手法から実例まで,様々な観点から解説しています.また,超音波画像やMRIで計測が難しい舌筋の活動や,音の伝播,気流の乱れなどについては,模型を用いた実験や数値シミュレーションによる解析方法を詳しく解説しています.
一方,声帯振動による発声については,MRIや超音波画像では観察が難しいため,異なる手法が発展してきました.具体的には,ハイスピードカメラを用いて発声時の喉を観察したり,摘出喉頭を用いて声帯の振動を観察する方法があります.これらの計測手法について解説するとともに,計測データをもとにした声帯のシミュレーションについても詳しく解説しています.
さらに,上記の物理的な情報を用いた機械学習による最新の解析手法についても紹介しています.本書の特徴は,音や言葉の情報だけでなく,音声器官の形状や力学的特性などの物理的な情報を捉えることで,単に音声や声質の変化を記述するだけでなく,なぜそのような変化が生じるのかを物理的に説明することを目指した手法に着目している点にあります.このような手法により,音声学における方言による音の変化の説明や,構音障害・発声障害の治療への応用など,様々な分野への展開が期待できます.
また,第1章では肺から唇までの主な音声器官について,解剖学及び生理学的な説明を行なっており,計測やシミュレーションで登場する音声器官に関する用語についても,基礎から学べるようになっています.
【読者対象】
音響・音声・物理・計算力学・機械学習などの分野に興味を持つ学部4年生、大学院生、若手研究者.また、耳鼻咽喉科の音声医学に関わる医師、歯科医師、言語聴覚士などの医療従事者.ボイストレーナーなどの声を仕事とする人.
【キーワード】
調音音声学,超音波画像法,リアルタイムMRI,ハイスピードカメラ,数値流体力学,構造解析,PINN