小林秀雄にとって批評とは、作品創造に随伴する自意識の活動を追跡しながら、天才たちの個性・独創性を明らかにする営みであった。小林はこれを、「宿命の主調低音」を聞くという言葉で言い表す。この手法を駆使しながら小林は、ランボー、ドストエフスキー、モーツァルト、ゴッホといった天才芸術家たちの宿命の形に迫っていく。その批評の対象は、芸術家のみならず、ベルクソン、本居宣長といった東西の思想家にまで及んでいる。
昭和という時代の文学・思想は、小林抜きでは考えられないとも言われる。「批評の神様」、「言葉の魔術師」、「教祖」など、小林にはさまざまな称号が奉られている。しかし、そうした大げさなレッテルに覆われた、批評家小林の真価はどこにあるのか。本書は、天才たちの宿命と渡り合いながら二十世紀の日本を生き抜いた小林自身の宿命の形を、その作品に即して丁寧に説き明かした、「普通の解説」の決定版である。