本書は、Covid-19(新型コロナウイルス感染症)の起源をめぐる、分子生物学者と科学ジャーナリストの探究の記録であり、隠された事実を明らかにしていった人々の物語である。
Covid-19によるパンデミックがどのような経緯で発生し、人に感染し広まったのかについてはいまだに解明されていないが、今後起こりうる新たなパンデミックを防ぐためにも、それを解明することは不可欠である。
本書の著者である科学ジャーナリストのマット・リドレーは2020年4月に『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙にウイルスの起源に関する文章を寄稿して以降、この問題についての調査や執筆を行った。その中でリドレーは、研究者の立場からこの問題に取り組み情報発信していたアリーナ・チャンの助言や洞察に頼るようになり、共同で本書を執筆することを提案した。
中国・武漢で最初に確認されたCovid-19の起源についてはいくつかの説があるが、大きく分けると、自然界の動物からヒトに感染して広まったという説(自然感染説)と、武漢ウイルス研究所から広まったという説(実験室流出説)がある。このうち、実験室流出説は、当初、非常に可能性が低いものと見なされたり、陰謀論として排除されたりしていた。だが、本書の著者たちやその他のインターネット上の「探偵」たちの調査などにより、実験室流出を強く示唆する数々の状況証拠が浮かび上がってきた。
著者らはこれまでの調査の経緯から、実験室からの流出の可能性が高いと考えている。これに関して関係機関・関係者から情報が十分に開示されていないという問題もある。また、機能獲得研究(病原体に新しいタイプの細胞や新しい宿主種に感染する能力など、何らかの新しい、あるいは改良された能力を獲得させる研究)を行う研究者や関係者が、研究を続けられなくなることを避けるために実験室流出説を否定している可能性もあり、これは科学研究の倫理の問題でもある。
日本ではCovid-19の起源をめぐる研究や調査についての報道や出版は十分でないと思われる。本書は、多くの人にこの問題への注目と理解を促し、新たな議論を生み出す契機となるだろう。