- 発売日:2022/10/13
- 出版社:南江堂
- ISBN:9784524226078
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商品説明
胸部大動脈外科において知らない人はいない,国内外で6,000例以上の症例を経験してきた著者のテクニック,ノウハウを,実際のシェーマで示しながら解説した成書である.213項目の豊富なWeb動画も収録し,標準治療から著者ならではの手術手技まで,盛りだくさんの手術書である.
【主要目次】
1章.リスク評価と術前管理
2章.高齢者における胸部大動脈瘤
3章.手術器械
4章.開胸・閉胸
5章.大動脈基部置換術
6章.上行大動脈・hemiarch置換術
7章.弓部大動脈手術
8章.下行・胸腹部大動脈手術
9章.大動脈解離
10章.広範囲胸部大動脈置換術
11章.大動脈瘤破裂
12章.再手術
13章.大動脈感染
14章.大動脈左室不連続
15章.炎症性大動脈疾患
16章.Marfan症候群などの結合組織性疾患
17章.弓部大動脈先天異常
18章.肺出血,神経障害,止血
【主要目次】
1章.リスク評価と術前管理
2章.高齢者における胸部大動脈瘤
3章.手術器械
4章.開胸・閉胸
5章.大動脈基部置換術
6章.上行大動脈・hemiarch置換術
7章.弓部大動脈手術
8章.下行・胸腹部大動脈手術
9章.大動脈解離
10章.広範囲胸部大動脈置換術
11章.大動脈瘤破裂
12章.再手術
13章.大動脈感染
14章.大動脈左室不連続
15章.炎症性大動脈疾患
16章.Marfan症候群などの結合組織性疾患
17章.弓部大動脈先天異常
18章.肺出血,神経障害,止血
目次
【書評】
敬愛する大北裕先生が,ご自身の集大成ともいえる著書『胸部大動脈の外科』を執筆なさった.その書評を執筆する機会をいただいたことに,まず感謝申し上げる.
本書は大北先生ご自身が一人で執筆されたものである.内容は,術前評価,使用してきた手術器械,実践してきたoff the job trainingから,到達法,術式・病態別の治療戦略,実際の手技にいたるまで,理論的背景や諸家の成績を含めて解説したものである.実際に大北先生が執刀なさった多数の患者さんの手術記録に基づき,ご自身とお弟子さんたちが清書されたカラー図と,213にも及ぶ動画が収載されており,きわめてわかりやすい.感嘆するのは,先生とお弟子さんたちがすべての手術記録をカラーで詳細に図示して残してきたという事実である.これらの図はどれをみても要所を的確に押さえており,術者が何をみてどう対処したか,その結果がどうであったかをみてとれる.文字どおり自明であり,まさに「百聞は一見にしかず」である.
本書の内容は,胸部大動脈にかかわるすべて,すなわち大動脈基部から胸腹部大動脈にいたる病態をすべて網羅している.中でも多くの紙面を割かれているのは,大動脈基部手術(弁温存基部置換術やRoss手術,感染性心内膜炎に伴う左室-大動脈不連続などに対する弁輪再建を含む),胸腹部大動脈手術,上行大動脈から下行・胸腹部大動脈にいたる一期的広範大動脈置換術,再手術や感染性大動脈疾患に対する手術といった,もっとも困難な領域である.大北先生の卓越した実力に基づく膨大な経験を垣間みることができる.術式の解説には,近年の側方直斜切開(SIRC)やMichigan法による大動脈弁輪拡大も収載され,新しい術式も積極的に取り入れる姿勢が反映されている.一方で,胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)をはじめとする低侵襲治療や,高齢者の手術適応限界に関する記述は皆無といってよい(高齢者リスク評価の記述はあるが).実に大北先生らしい.TEVAR隆盛の時代にあって直達手術,特に側方開胸を要する手術を担う医師は稀少となっている.まさに絶滅危惧種である.しかし,TEVARの遠隔期合併症の報告が増加するとともに,直達手術の重要性もまた増している.本書は,大北先生ご自身の一つの集大成であるとともに,この領域でわが国の先人たちが築き上げてきた,世界をリードする技術と経験のランドマークでもある.TEVARを自ら実施しない外科医にも,frozen elephant trunkやハイブリッド手術が安易に選択される風潮の中で直達手術のノウハウを根絶やしにしないためにも,大動脈外科を志す諸兄にはぜひ熟読していただきたい.
本書の巻頭言には,「できるだけバイアスがかからないように心がけたつもりである」と述べられている.大北先生らしい,実に真摯な取り組み方である.しかし本書はもとより単著であり,バイアスは不可避である.後側方開胸やSIRCなどの基本的な到達法一つをとっても,同じ名前の手技でありながら,筆者が用いている手技とはまったく異なるものである.しかし,本書は「大北裕」という一代を成した大外科医個人の卓越した経験を後進に共有し,大動脈外科学の継続と発展に寄与するためのものである.この困難な領域において,多数の臨床経験,優れた臨床成績に基づき多くのacademic workを成し遂げ,国際的にも評価が高い,自他ともに認める第一人者の,外科医としての集大成にバイアスがかかっていて,わるいことがあろうか? いや,かかっているからこそ,本書は貴重なのである.本書は,Kirklinの教科書のようなessentialsをおさえた分担執筆の教科書では決してなく,当代の最先端の治療戦略を,多くのイラストレーションを活用して解説した単著である.Crawford先生の『Diseases of the Aorta』よりも文章による解説が充実しており,Borst先生の『Surgical Treatment of Aortic Dissection』よりもカバーする領域が広い,比類なき名著である.胸部大動脈外科医を志す医師のみならず,心臓血管外科にかかわるすべての医師におすすめしたい,必読の書である.
胸部外科76巻4号(2023年4月号)より転載
評者●浜松医科大学心臓血管外科教授・椎谷紀彦
【序文】
まったく無症状で,大動脈瘤を偶然に発見され,破裂への恐怖心がために手術を受けながら,家族から慕われている人々の多くが,命を落とし,脳障害を呈し,対麻痺となり,正常の社会生活を奪われていった.著者が心臓血管外科医を志した1980年代初頭の頃の風景である.以来40年が経過,人工心肺,麻酔法,脳・脊髄をはじめとする臓器保護法,zero porosity人工血管の出現,血管内治療法,CT,MRI,超音波などの診断法などが飛躍的に進歩するなど,多くの先達のご努力により,大動脈外科の成果は今世紀になって見事に花開いた.心臓大血管外科手術は先達の蓄積した知識,技術のうえに,一つ一つの手術における毎日の真摯な取り組み,反省,悔悟から,後進が日々改良,工夫を重ねてきたものであり,患者の血と汗と涙,外科医の魂の伝承である.しかしながら,現在もなお,胸部大動脈外科手術は患者にとって高侵襲治療であり,早期死亡率,合併症発生率も他の心臓手術と比較するとはるかに高く,よりいっそうの手術成績の向上が望まれている.
下段に掲げた表は,著者が1999年10月から2018年3月末まで神戸大学在任中に経験した胸部大動脈手術2,331例とその病院死亡数である.縦軸は上から大動脈基部,上行大動脈,弓部,基部+弓部,下行大動脈,胸腹部大動脈,大動脈拡大再建,胸部大動脈ステント.横軸が左より非解離性大動脈瘤,急性大動脈解離,右側が慢性大動脈解離,それぞれ待機手術,緊急手術である.病院死亡は161例,6.9%で,他の心臓手術に比べると依然として高い.なかでも,ピンク色の項は死亡率が10%を超えている疾患,手術群である.高死亡率を示すのは緊急手術群に多く,志は道半ば,と思う.また病院死亡以外にも転院先,療養施設での死亡も存在する.このピンク色を緑色に改善すべく,様々な努力・工夫を重ねてきた.これが,私の共同墓地である.(レネ・ルーリッシュHenri Marie René Leriche(1879〜1955年);“外科医は誰も自分の中に小さな共同墓地を持っている.ときおりそこを訪れ 祈りを捧げると,そこは苦渋と悔恨の場所であり,外科医はそこで自分が犯してきた失敗の数々の言い訳を探さなければいけない”)
本書では病態・疫学・検査・診断などの記述はなるべく省き,各項の最初から手術を中心とした解説に的を絞り,手術実践の手技とポイントを,簡潔な文章と外科医の手になる手術画で解説を展開した.また,できるだけ多くの手術映像を閲覧できるようにオンラインシステムをお願いした.執筆は著者単独で行い,手術症例,成績は著者が,天理よろづ相談所病院,国立循環器病センター,神戸大学心臓血管外科および関連施設,高槻病院 心臓・大血管センターで経験した症例のみを取り上げた.手術画は著者と大村篤史先生,神戸大学心臓血管外科のスタッフらと作成し,終始一貫したタッチを目指した.学会発表に使用したスライドからも一部流用させていただいた.イラストの多くは手術記録から転載し,加筆した.実際の大動脈手術に携わったチームの経験を,具体的なカンファレンスのように編集し,手術記録も添付した.また,内容を一瞥していただければ即座に判然とするが,血管内治療の記載は皆無に近い.この意味で,本書は従来の多数の執筆陣を動員した教科書とは本質的に異なり,一外科医の独白,主張の披瀝と理解していただければ幸甚である.本書の内容に著者の独断・僻見がないように極力,留意はしたが,そこのところは,いささか自信がない.
外科医教育には古来からMeister直伝による徒弟制度が王道とされてきたが,近年,AIを駆使したmeta-verseの展開など,virtual手法の有用性が喧伝されている.しかしながら,臨床医学の基本はあくまで,手のぬくもりを通じた患者と医療者の一対一の対峙にあることを忘れてはならない.
大動脈病変に対する血管内治療が隆盛となった昨今,純粋に開胸手術のみを取り扱った.単独執筆による外科手術書がどれだけ読者のご支持を得られるか,甚だ不安であるが,1985年に E. Stanly Crawford “Diseases of the Aorta” や1986年にJohn W. Kirklin / Barratt-Boyes “Cardiac Surgery” を手にしたときの感動を読者諸兄姉と再び分かち合いたいと思い,筆を執った.本書が大動脈外科医の実践にお役に立てれば著者として望外の慶びである.
本書を,唯々諾々,悠然と大動脈手術を受けていただいた患者さん達と,大動脈手術に携わるすべての人々に捧げたい.
2022年長月
大北 裕
【目次】
1章.リスク評価と術前管理
[1]リスクスコア
[2]心機能
[3]中枢神経機能
[4]腎機能
[5]肝機能
[6]呼吸機能
[7]Frailtyの評価
[8]術前管理
[9]術前リスク評価のチェックリスト
2章.高齢者における胸部大動脈瘤
[1]心臓血管外科手術における高齢患者の特徴
[2]Frailtyの評価方法
[3]高齢者に特徴的な周術期合併症
[4]早期死亡率と危険因子
[5]開胸手術の注意点
[6]成績
3章.手術器械
[1]器具と取り扱い方:道具,機器を知悉する
[2]運針法,結紮法
[3]術野の確保
[4]人工心肺中の術野吸引システム
[5]シミュレータによる練習
4章.開胸・閉胸
[1]正中切開
[2]後側方切開
[3]胸腹部大動脈手術におけるStoney切開
[4]側方直斜切開(SIRC)
[5]ALPS
[6]Clam-shell法
[7]前側方切開
[8]皮膚小切開法
5章.大動脈基部置換術
[1]大動脈基部の外科的解剖
[2]大動脈弁閉鎖不全症:病変の分類
[3]大動脈弁閉鎖不全症の成因
[4]大動脈弁逆流の形態学的診断
[5]手術適応
[6]Bentall法
[7]自己弁温存基部置換
[8]Ross手術
[9]小児期における大動脈基部置換
[10]Ross手術後の自己肺動脈弁拡張に対する自己弁温存基部置換
[11]大動脈基部再手術における自己弁温存術式
[12]手術成績
[13]大動脈狭小弁輪を有する症例に対する弁輪拡大術
6章.上行大動脈・hemiarch置換術
[1]非解離性大動脈瘤への到達法
[2]塞栓症の予防・脳保護法
[3]上行大動脈置換における手技上の要点
7章.弓部大動脈手術
[1]瘤への到達法
[2]塞栓症の予防
[3]脳保護法
[4]順行性脳灌流,弓部大動脈全置換術における手技の要点(正中切開)
[5]Siena graftを使用した弓部大動脈全置換
[6]Shaggy aorta
[7]左開胸による遠位弓部大動脈置換
[8]成績
8章.下行・胸腹部大動脈手術
[1]脊髄の血行支配
[2]脊髄虚血性障害(SCI)
[3]体外循環法
[4]手術手技
[5]肋間動脈・腰動脈(SA)再建方法
[6]腹部臓器保護・動脈再建法
[7]Shaggy aortaへの対策
[8]脊髄機能の電気生理学的モニタリング
[9]脊髄保護としての低体温法
[10]脳脊髄液ドレナージ法
[11]大動脈の段階的分割手術
[12]胸腹部大動脈に対する血管内治療
[13]脊髄虚血に対する薬物療法
[14]術後疼痛対策
[15]成績
9章.大動脈解離
[1]大動脈解離の治療戦略
[2]急性A型大動脈解離の手術適応・至適時期
[3]血栓閉塞型解離,二尖弁に合併した解離,多腔解離の手術適応
[4]急性A型大動脈解離の手術
[5]慢性A型大動脈解離に対する弓部大動脈全置換
[6]心タンポナーデ
[7]大動脈弁逆流に対する手技
[8]急性B型大動脈解離の手術適応
[9]臓器灌流障害に対する手術
[10]医原性大動脈解離
[11]TEVAR適応
[12]慢性大動脈解離の手術適応・至適時期
[13]手術非適応症例
[14]外科治療の成績
10章.広範囲胸部大動脈置換術
[1]後側方切開
[2]胸骨正中切開+左胸膜切開
[3]Clam-shell法
[4]ALPS
[5]側方直斜切開(SIRC)
[6]胸骨正中切開+胸骨横断前側方切開
[7]臨床成績
11章.大動脈瘤破裂
[1]大動脈救急疾患の頻度
[2]非解離大動脈瘤破裂
[3]仮性大動脈瘤(感染性大動脈瘤,人工血管感染症,大動脈‒食道瘻を含む)
[4]TEVARの役割
[5]手術の実際
[6]われわれの成績
12章.再手術
[1]再手術の適応,頻度,危険因子
[2]大動脈基部再手術
[3]左開胸再手術
[4]再手術の成績
13章.大動脈感染
[1]発生頻度,発生部位,患者背景
[2]術前所見,細菌学的検査
[3]画像診断
[4]保存的治療
[5]外科治療
[6]血管内治療
[7]非解剖学的bypass術
[8]大動脈瘻
[9]成績
14章.大動脈左室不連続
[1]弁周囲感染に対する手術の報告
[2]基部再建を要する感染性心内膜炎に対する自己弁の温存
[3]人工弁の選択
[4]手術の実際
[5]活動性感染性心内膜炎(AIE)に合併した脳病変
[6]われわれの成績
15章.炎症性大動脈疾患
[1]高安動脈炎
[2]巨細胞性動脈炎
[3]Behçet病
[4]多発血管炎性肉芽腫症
[5]成績
16章.Marfan症候群などの結合組織性疾患
[1]診断
[2]内科的治療
[3]手術適応
[4]大動脈基部置換術
[5]大動脈解離に対する手術
[6]予後
17章.弓部大動脈先天異常
[1]Kommerell憩室
[2]大動脈縮窄症
[3]椎骨動脈起始異常
18章.肺出血,神経障害,止血
[1]神経障害の予防
[2]肺損傷の予防
[3]出血の予防
[4]閉胸
[5]疼痛管理
敬愛する大北裕先生が,ご自身の集大成ともいえる著書『胸部大動脈の外科』を執筆なさった.その書評を執筆する機会をいただいたことに,まず感謝申し上げる.
本書は大北先生ご自身が一人で執筆されたものである.内容は,術前評価,使用してきた手術器械,実践してきたoff the job trainingから,到達法,術式・病態別の治療戦略,実際の手技にいたるまで,理論的背景や諸家の成績を含めて解説したものである.実際に大北先生が執刀なさった多数の患者さんの手術記録に基づき,ご自身とお弟子さんたちが清書されたカラー図と,213にも及ぶ動画が収載されており,きわめてわかりやすい.感嘆するのは,先生とお弟子さんたちがすべての手術記録をカラーで詳細に図示して残してきたという事実である.これらの図はどれをみても要所を的確に押さえており,術者が何をみてどう対処したか,その結果がどうであったかをみてとれる.文字どおり自明であり,まさに「百聞は一見にしかず」である.
本書の内容は,胸部大動脈にかかわるすべて,すなわち大動脈基部から胸腹部大動脈にいたる病態をすべて網羅している.中でも多くの紙面を割かれているのは,大動脈基部手術(弁温存基部置換術やRoss手術,感染性心内膜炎に伴う左室-大動脈不連続などに対する弁輪再建を含む),胸腹部大動脈手術,上行大動脈から下行・胸腹部大動脈にいたる一期的広範大動脈置換術,再手術や感染性大動脈疾患に対する手術といった,もっとも困難な領域である.大北先生の卓越した実力に基づく膨大な経験を垣間みることができる.術式の解説には,近年の側方直斜切開(SIRC)やMichigan法による大動脈弁輪拡大も収載され,新しい術式も積極的に取り入れる姿勢が反映されている.一方で,胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)をはじめとする低侵襲治療や,高齢者の手術適応限界に関する記述は皆無といってよい(高齢者リスク評価の記述はあるが).実に大北先生らしい.TEVAR隆盛の時代にあって直達手術,特に側方開胸を要する手術を担う医師は稀少となっている.まさに絶滅危惧種である.しかし,TEVARの遠隔期合併症の報告が増加するとともに,直達手術の重要性もまた増している.本書は,大北先生ご自身の一つの集大成であるとともに,この領域でわが国の先人たちが築き上げてきた,世界をリードする技術と経験のランドマークでもある.TEVARを自ら実施しない外科医にも,frozen elephant trunkやハイブリッド手術が安易に選択される風潮の中で直達手術のノウハウを根絶やしにしないためにも,大動脈外科を志す諸兄にはぜひ熟読していただきたい.
本書の巻頭言には,「できるだけバイアスがかからないように心がけたつもりである」と述べられている.大北先生らしい,実に真摯な取り組み方である.しかし本書はもとより単著であり,バイアスは不可避である.後側方開胸やSIRCなどの基本的な到達法一つをとっても,同じ名前の手技でありながら,筆者が用いている手技とはまったく異なるものである.しかし,本書は「大北裕」という一代を成した大外科医個人の卓越した経験を後進に共有し,大動脈外科学の継続と発展に寄与するためのものである.この困難な領域において,多数の臨床経験,優れた臨床成績に基づき多くのacademic workを成し遂げ,国際的にも評価が高い,自他ともに認める第一人者の,外科医としての集大成にバイアスがかかっていて,わるいことがあろうか? いや,かかっているからこそ,本書は貴重なのである.本書は,Kirklinの教科書のようなessentialsをおさえた分担執筆の教科書では決してなく,当代の最先端の治療戦略を,多くのイラストレーションを活用して解説した単著である.Crawford先生の『Diseases of the Aorta』よりも文章による解説が充実しており,Borst先生の『Surgical Treatment of Aortic Dissection』よりもカバーする領域が広い,比類なき名著である.胸部大動脈外科医を志す医師のみならず,心臓血管外科にかかわるすべての医師におすすめしたい,必読の書である.
胸部外科76巻4号(2023年4月号)より転載
評者●浜松医科大学心臓血管外科教授・椎谷紀彦
【序文】
まったく無症状で,大動脈瘤を偶然に発見され,破裂への恐怖心がために手術を受けながら,家族から慕われている人々の多くが,命を落とし,脳障害を呈し,対麻痺となり,正常の社会生活を奪われていった.著者が心臓血管外科医を志した1980年代初頭の頃の風景である.以来40年が経過,人工心肺,麻酔法,脳・脊髄をはじめとする臓器保護法,zero porosity人工血管の出現,血管内治療法,CT,MRI,超音波などの診断法などが飛躍的に進歩するなど,多くの先達のご努力により,大動脈外科の成果は今世紀になって見事に花開いた.心臓大血管外科手術は先達の蓄積した知識,技術のうえに,一つ一つの手術における毎日の真摯な取り組み,反省,悔悟から,後進が日々改良,工夫を重ねてきたものであり,患者の血と汗と涙,外科医の魂の伝承である.しかしながら,現在もなお,胸部大動脈外科手術は患者にとって高侵襲治療であり,早期死亡率,合併症発生率も他の心臓手術と比較するとはるかに高く,よりいっそうの手術成績の向上が望まれている.
下段に掲げた表は,著者が1999年10月から2018年3月末まで神戸大学在任中に経験した胸部大動脈手術2,331例とその病院死亡数である.縦軸は上から大動脈基部,上行大動脈,弓部,基部+弓部,下行大動脈,胸腹部大動脈,大動脈拡大再建,胸部大動脈ステント.横軸が左より非解離性大動脈瘤,急性大動脈解離,右側が慢性大動脈解離,それぞれ待機手術,緊急手術である.病院死亡は161例,6.9%で,他の心臓手術に比べると依然として高い.なかでも,ピンク色の項は死亡率が10%を超えている疾患,手術群である.高死亡率を示すのは緊急手術群に多く,志は道半ば,と思う.また病院死亡以外にも転院先,療養施設での死亡も存在する.このピンク色を緑色に改善すべく,様々な努力・工夫を重ねてきた.これが,私の共同墓地である.(レネ・ルーリッシュHenri Marie René Leriche(1879〜1955年);“外科医は誰も自分の中に小さな共同墓地を持っている.ときおりそこを訪れ 祈りを捧げると,そこは苦渋と悔恨の場所であり,外科医はそこで自分が犯してきた失敗の数々の言い訳を探さなければいけない”)
本書では病態・疫学・検査・診断などの記述はなるべく省き,各項の最初から手術を中心とした解説に的を絞り,手術実践の手技とポイントを,簡潔な文章と外科医の手になる手術画で解説を展開した.また,できるだけ多くの手術映像を閲覧できるようにオンラインシステムをお願いした.執筆は著者単独で行い,手術症例,成績は著者が,天理よろづ相談所病院,国立循環器病センター,神戸大学心臓血管外科および関連施設,高槻病院 心臓・大血管センターで経験した症例のみを取り上げた.手術画は著者と大村篤史先生,神戸大学心臓血管外科のスタッフらと作成し,終始一貫したタッチを目指した.学会発表に使用したスライドからも一部流用させていただいた.イラストの多くは手術記録から転載し,加筆した.実際の大動脈手術に携わったチームの経験を,具体的なカンファレンスのように編集し,手術記録も添付した.また,内容を一瞥していただければ即座に判然とするが,血管内治療の記載は皆無に近い.この意味で,本書は従来の多数の執筆陣を動員した教科書とは本質的に異なり,一外科医の独白,主張の披瀝と理解していただければ幸甚である.本書の内容に著者の独断・僻見がないように極力,留意はしたが,そこのところは,いささか自信がない.
外科医教育には古来からMeister直伝による徒弟制度が王道とされてきたが,近年,AIを駆使したmeta-verseの展開など,virtual手法の有用性が喧伝されている.しかしながら,臨床医学の基本はあくまで,手のぬくもりを通じた患者と医療者の一対一の対峙にあることを忘れてはならない.
大動脈病変に対する血管内治療が隆盛となった昨今,純粋に開胸手術のみを取り扱った.単独執筆による外科手術書がどれだけ読者のご支持を得られるか,甚だ不安であるが,1985年に E. Stanly Crawford “Diseases of the Aorta” や1986年にJohn W. Kirklin / Barratt-Boyes “Cardiac Surgery” を手にしたときの感動を読者諸兄姉と再び分かち合いたいと思い,筆を執った.本書が大動脈外科医の実践にお役に立てれば著者として望外の慶びである.
本書を,唯々諾々,悠然と大動脈手術を受けていただいた患者さん達と,大動脈手術に携わるすべての人々に捧げたい.
2022年長月
大北 裕
【目次】
1章.リスク評価と術前管理
[1]リスクスコア
[2]心機能
[3]中枢神経機能
[4]腎機能
[5]肝機能
[6]呼吸機能
[7]Frailtyの評価
[8]術前管理
[9]術前リスク評価のチェックリスト
2章.高齢者における胸部大動脈瘤
[1]心臓血管外科手術における高齢患者の特徴
[2]Frailtyの評価方法
[3]高齢者に特徴的な周術期合併症
[4]早期死亡率と危険因子
[5]開胸手術の注意点
[6]成績
3章.手術器械
[1]器具と取り扱い方:道具,機器を知悉する
[2]運針法,結紮法
[3]術野の確保
[4]人工心肺中の術野吸引システム
[5]シミュレータによる練習
4章.開胸・閉胸
[1]正中切開
[2]後側方切開
[3]胸腹部大動脈手術におけるStoney切開
[4]側方直斜切開(SIRC)
[5]ALPS
[6]Clam-shell法
[7]前側方切開
[8]皮膚小切開法
5章.大動脈基部置換術
[1]大動脈基部の外科的解剖
[2]大動脈弁閉鎖不全症:病変の分類
[3]大動脈弁閉鎖不全症の成因
[4]大動脈弁逆流の形態学的診断
[5]手術適応
[6]Bentall法
[7]自己弁温存基部置換
[8]Ross手術
[9]小児期における大動脈基部置換
[10]Ross手術後の自己肺動脈弁拡張に対する自己弁温存基部置換
[11]大動脈基部再手術における自己弁温存術式
[12]手術成績
[13]大動脈狭小弁輪を有する症例に対する弁輪拡大術
6章.上行大動脈・hemiarch置換術
[1]非解離性大動脈瘤への到達法
[2]塞栓症の予防・脳保護法
[3]上行大動脈置換における手技上の要点
7章.弓部大動脈手術
[1]瘤への到達法
[2]塞栓症の予防
[3]脳保護法
[4]順行性脳灌流,弓部大動脈全置換術における手技の要点(正中切開)
[5]Siena graftを使用した弓部大動脈全置換
[6]Shaggy aorta
[7]左開胸による遠位弓部大動脈置換
[8]成績
8章.下行・胸腹部大動脈手術
[1]脊髄の血行支配
[2]脊髄虚血性障害(SCI)
[3]体外循環法
[4]手術手技
[5]肋間動脈・腰動脈(SA)再建方法
[6]腹部臓器保護・動脈再建法
[7]Shaggy aortaへの対策
[8]脊髄機能の電気生理学的モニタリング
[9]脊髄保護としての低体温法
[10]脳脊髄液ドレナージ法
[11]大動脈の段階的分割手術
[12]胸腹部大動脈に対する血管内治療
[13]脊髄虚血に対する薬物療法
[14]術後疼痛対策
[15]成績
9章.大動脈解離
[1]大動脈解離の治療戦略
[2]急性A型大動脈解離の手術適応・至適時期
[3]血栓閉塞型解離,二尖弁に合併した解離,多腔解離の手術適応
[4]急性A型大動脈解離の手術
[5]慢性A型大動脈解離に対する弓部大動脈全置換
[6]心タンポナーデ
[7]大動脈弁逆流に対する手技
[8]急性B型大動脈解離の手術適応
[9]臓器灌流障害に対する手術
[10]医原性大動脈解離
[11]TEVAR適応
[12]慢性大動脈解離の手術適応・至適時期
[13]手術非適応症例
[14]外科治療の成績
10章.広範囲胸部大動脈置換術
[1]後側方切開
[2]胸骨正中切開+左胸膜切開
[3]Clam-shell法
[4]ALPS
[5]側方直斜切開(SIRC)
[6]胸骨正中切開+胸骨横断前側方切開
[7]臨床成績
11章.大動脈瘤破裂
[1]大動脈救急疾患の頻度
[2]非解離大動脈瘤破裂
[3]仮性大動脈瘤(感染性大動脈瘤,人工血管感染症,大動脈‒食道瘻を含む)
[4]TEVARの役割
[5]手術の実際
[6]われわれの成績
12章.再手術
[1]再手術の適応,頻度,危険因子
[2]大動脈基部再手術
[3]左開胸再手術
[4]再手術の成績
13章.大動脈感染
[1]発生頻度,発生部位,患者背景
[2]術前所見,細菌学的検査
[3]画像診断
[4]保存的治療
[5]外科治療
[6]血管内治療
[7]非解剖学的bypass術
[8]大動脈瘻
[9]成績
14章.大動脈左室不連続
[1]弁周囲感染に対する手術の報告
[2]基部再建を要する感染性心内膜炎に対する自己弁の温存
[3]人工弁の選択
[4]手術の実際
[5]活動性感染性心内膜炎(AIE)に合併した脳病変
[6]われわれの成績
15章.炎症性大動脈疾患
[1]高安動脈炎
[2]巨細胞性動脈炎
[3]Behçet病
[4]多発血管炎性肉芽腫症
[5]成績
16章.Marfan症候群などの結合組織性疾患
[1]診断
[2]内科的治療
[3]手術適応
[4]大動脈基部置換術
[5]大動脈解離に対する手術
[6]予後
17章.弓部大動脈先天異常
[1]Kommerell憩室
[2]大動脈縮窄症
[3]椎骨動脈起始異常
18章.肺出血,神経障害,止血
[1]神経障害の予防
[2]肺損傷の予防
[3]出血の予防
[4]閉胸
[5]疼痛管理
胸部大動脈の外科[Web動画付]
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