「顧客中心」に類するフレーズを目にすることが多いが、顧客に直接接する機会が少ない業務に携わる社員にとってこのフレーズは、どのような意味を持つのだろうか。事業が提供する商品やサービスを、最終的に利用する顧客=最終顧客のことを、日々の業務で強く意識することは難しいだろう。
本書は、Patient Centricity(患者中心)の考え方が急速に普及しつつある製薬企業をモデルケースとして、その考え方が従業員の心理や行動に及ぼす影響を検証する。製薬企業にとって最終顧客である患者と、直接接することは法律で強く規制されており、従業員は最終顧客と接する機会はほぼない。
製薬企業で薬の研究開発に従事してきた経験を持つ筆者は、ある日患者の講演会に参加し、自分の仕事の意義を再認識、そこから最終顧客志向と従業員・組織の業績の関係を追究したのが本書である。
その結果、従業員や組織が最終顧客を志向し、最終顧客を知る活動を推進することは、従業員のワーク・エンゲイジメントを向上させ、さらに組織のパフォーマンスも向上させる可能性が示された。
各部の終わりには、検証内容の実務的な示唆を解説する章を設けるなど、実務家の読者の理解を助ける工夫もなされ、また筆者の製薬企業での経験に基づいて書かれたコラムも大変興味深い。仕事の意義を見失いがちなビジネスパーソン、組織モチベーション向上を目指す経営層におすすめしたい。
また学術的にも、「最終顧客志向」を推進する組織と従業員への影響に関し、組織行動論の視点からの接近はこれまで十分に検討されておらず、貴重な研究成果と言えよう。