かつて猫が大陸から船で海を渡って日本にやってきたのは、ネズミから仏教の経典などを守るためだった。その後猫は、日本人の穀物や蚕を守り、「猫絵」や「狛猫」が生まれるなど信仰の対象にもなる一方、人々の心も守ってきたと言える。さらに猫は、がん遺伝子の研究にも大きな貢献を果たしている。
本書では猫のルーツや生態、歴史を解説し、どのように猫に「恩返し」をしていくかを考える。
(第2章より)私は以前、犬も飼っていました。シェットランド・シープドッグのマミちゃんです。
犬のすばらしい長所の一つは、こちらの言葉や声、しぐさに素直に反応してくれることです。たとえば私が嘘泣きをしてみても、ちゃんと慰めてくれます。痛くもないのに「痛い、痛い」と言ってうずくまってみても、心配して飛んで来てくれるのです。実にありがたいものです。ただ、演技であることに気づいていないのか、それとも気づいたうえで付き合ってくれているのか、そのあたりはわかりません。
ところが、猫は違います。試しに、「痛い、痛い」と言いながらうずくまってみても、(飼い猫の)塩八はまったく反応しません。けれども、本当に痛くて苦しんでいるときは、様子を見に来る。これはとても不思議です。
もちろん、猫が人の心を見抜いているなどと簡単に断言するつもりはありません。しかし、言葉や声だけではなく、むしろ、空気の張りつめ方、呼吸の乱れ、身体の動きの重さ、いつもと違う沈黙の質、そういった状態の変化を、何かしら感じ取っているように思えるのです。
犬が言葉に強い動物だとすれば、猫は気配に強い動物なのではないか。私はそんな気がしています。