万延元年、幕末の足音が響く江戸。最先端の洋学をめぐり、武家屋敷の奥方たちの日常は静かに揺らぎ始める――。
蕃書調所(洋学の教育研究機関)の頭取助を務める武士・右田十郎の屋敷では、凛とした佇まいの正妻・おりうと、半年前から同居を始めた元芸者の妾・お糸が、緊張感の漂う日々を送っていた。
そんなある日、十郎の部下であり、化学実験を担う精錬方の若き俊英・柿谷藤一郎が突如として失踪を遂げる。洋学を危険視する保守派からの弾圧を恐れた十郎は、事態を「女絡みの出奔」として穏便に処理すべく、お糸に隠密裏の探索を依頼する。
しかし時を同じくして、江戸の女たちの間では、出島渡りの薬種入りと噂される、冷たい青みを帯びた不思議な赤の「異国の紅」が爆発的な流行を見せていた。
夫が隠す洋学研究の裏の危機を察知し、独自の調査に乗り出す正妻・おりう。そして、流行の紅を売る小間物屋「いたち屋」が、柿谷の失踪前日に突如夜逃げした事実を突き止める妾・お糸。
「失踪した技術者」と「妖しく美しい紅」。交錯する二つの謎の先に待ち受ける、国レベルの陰謀とは。正妻と妾、対照的な二人の女が幕末の闇に立ち向かう歴史ミステリー。