生涯をかけて自由を追い求め続けた芸術家、望月桂(1886、戸籍上は1887〜1975)。現在の長野県安曇野市に生まれた望月は、東京美術学校(現・東京藝術大学)に進み、地元の彫刻家、荻原守衛(碌山)らに影響を受け、卒業後は普通の画家になることを拒み、大正時代の東京で一膳飯屋「へちま」を開く。そこは誰もがアーティストになれる場であった。望月は斬新な未来派の技法で挑発的な絵を描き、1919年に黒耀会を組織。過激なアンデパンダン展を開催した。さらに美術にとどまらず、望月の興味は演劇や音楽、そして漫画にも拡がっていった。その鮮烈な軌跡は、アートの歴史を書き換え、近代の文学史や社会運動史にもかつてないほど視覚的なイメージを与えた。そして戦後は郷里で農地改革や女子校の美術教育に注力した。望月は、画壇の中心から外れたところにいたため、長らく美術史では知られない存在であった。
本書は2026年7月から8月にかけて安曇野市美術館などで開催される企画展の図録。作品だけではなく、寄稿や対談、座談会など内容も多彩。世界の現代アートを先駆けた望月桂の魅力を余すところなく紹介した1冊である。
(編者紹介)
足立元(あだち・げん)
1977年東京生まれ。日本近現代の美術史・視覚社会史を研究。東京藝術大学美術学部芸術学科卒業、同大学大学院美術研究科博士後期課程修了。博士(美術)。現在、二松学舎大学文学部国文学科准教授。主な著書に『裏切られた美術 表現者たちの転向と挫折1910-1960』(ブリュッケ、2019年)、『新しい女は瞬間である 尾竹紅吉/富本一枝著作集』(皓星社、2023年)、『アナキズム美術史 日本の前衛芸術と社会思想』(平凡社、2023年)。
(本書の目次)
第1章安曇野から安曇野へ
第2章美術からの逸脱、アナキズムとの出会い
第3章黒耀会 現代アートの起点として
第4章大杉栄の背中と眼
第5章あの世からの花
第6章犀川凡太郎と戦争
第7章LIFE IS ART 生活即芸術
座談会 アンドリュー・マークル×卯城竜太×金秋雨×松田修「望月桂をめぐる国際性、現代性」
対談 武田砂鉄×足立元「望月桂を「発見」する」
寄稿 足立元、塩原理絵子、金井直、村田裕和、武井敏、岡村幸宣、エウゲーニア・グディーエバ、古屋淳二、瀧田浩、風間サチコ、大島浩、植草学、アダム・ジムジック