時は明治十九年。
文明開化の華やぎと、いまだ神仏やまじないの気配が色濃く残る時代――。
この国では二百年に一度、世に澱んだ穢れが満ちると、それを一身に背負う神が人の姿を借りて生まれる。
そして神殺しの一族・忌部(いんべ)家は、代々その神を討ち、穢れを祓う役目を担ってきた。
その忌部家の娘は、名を持たず、幸せを知らずに育てられていた。
彼女は、自らを「刃」として、神を討つべく帝都へとやってくる。ただ、「貴峰(たかね)」という名だけを頼りに。
そこで娘は、美貌の軍医・雨津久稀(あまつ・くき)に見初められ、花嫁として雨津家に入ることになった。
懐には、神を殺す刃「水分(みくまり)」を忍ばせたまま、名前を持たぬ娘の新婚生活が始まる。
心を閉ざし、屋敷の奥に潜むはずの神・貴峰を探し続ける娘。
だが久稀は、そんな彼女に「幸乃(ゆきの)」という名を与え、深く慈しんだ。
その優しさに触れるうち、幸乃は少しずつ人としての心を取り戻し、やがて久稀に惹かれ、恋というものを知っていく。
そんななか、帝都では虎列剌(コレラ)が猛威を振るい始める。
この国に、穢れが満ちつつあるのだ――。
愛してしまった神を殺すか、この国を滅ぼすか。
明治帝都を舞台に、わけありのふたりが形だけの結婚から真実の愛を育てていく、和風シンデレラ・ロマンス。