はじめに
古都が持っている不思議な魅力に取り憑かれ、気がつけば約50年近く撮
影を続けてきました。長い期間にわたって撮影してきた一枚一枚に刻まれた
風景の、どんなところに私は魅力を感じて撮影してきたのでしょうか。
古都の魅力に惹かれるようになったきっかけは、奈良・京都の修学旅行で
した。東京生まれの東京育ちですから、奈良や京都よりも至近の鎌倉に
通い詰めるようになったのは自然の成り行きでした。とはいえ、長い間、私
にとって古都のどんなところが魅力的だったのかを自問自答してみても、な
かなか答えがみつかりませんでした。
初めのうちは一人で撮影にでかけていましたが、いつの頃からか夫婦で撮
影旅に出かけるようになり、妻がいわば撮影助手のような役割を果たして
くれるようになりました。すると、自分では特に魅力を感じない風景を
前にしている時でも、ボソボソと何かを語りかけて来る時があります。そ
して、そのひと言で急に目の前の風景が輝いて見えてくることがたまにある
のです。こんなことが繰り返されているうちに思い至ったことがあります。
写真家は漠然と感じている古都の魅力を、感覚的に捉えながら撮影してい
ます。一方妻は、私が対面している風景のどこに魅力があるのだろうかと考
えているうちに、それを見事に言語化することがあるのです。「そうなんだ
よ、だからこのシーンを撮影しようと思っていたんだよ」と言いたくなるほ
ど、その一言は写真に写しとめたい古都の魅力を紐解くキーワードになって
いることがあるのです。
小説家でもエッセイストでもない妻の呟きですから、当然ながら当たり外
れはあるのですが、その一言がいつしか私の撮影活動の一助になっていました。
そんな古都写真家夫婦の撮影旅を、お裾分けしようというのが本書の趣旨
です。私たちと一緒に古都旅を楽しむ感覚でお読みいただければ幸いです。
二○二四年九月一日
原田 寛
(著者「はじめに」より)