16世紀以来,フィリピンはスペインとアメリカという二つの帝国による植民地統治を受けた.すなわち,この地域の近代化は,「帝国」の植民地支配と「民族主義」の相互関係,そして常に文脈として存在し続けた経済の中にその道筋をたどったことを意味している.医療・公衆衛生政策もまた二つの帝国統治の特徴を反映させた政策領域として展開し,現地社会に深く介入した.その一方,民族主義は,妥協や反発を繰り返してそうした介入主義に影響し,第一次世界大戦後にはフィリピン人が医療政策のイニシアティブを掌握していった.19世紀から20世紀,近代化・戦争・民族主義が渦巻いた時代のフィリピンにおける医療史を,社会経済的な文脈を踏まえ描き出す一つの試み.