1972 年の世界遺産条約の採択以来,世界遺産は人類共通の財産としての遺産を次世代へ継承するための国際的な仕組みとして発展してきた.その対象は歴史的建造物や遺跡のみならず,文化的景観,生物多様性に富む自然環境,人類の営みと自然との関係を示す多様な遺産へと広がり続けている.今日,世界遺産は学術研究の対象であると同時に,行政,観光,教育,地域振興,環境保全,国際協力など,幅広い分野と深く結びついている.そのため世界遺産を理解するためには,人文科学,社会科学,自然科学を横断する学際的な視点が不可欠である.
本書は,そのような世界遺産研究の広がりと到達点を体系的に示すことを目指してその仕組みや理念、保全・保護、社会や自然との関係、将来的な課題、各地の世界遺産などを全8章・各テーマなどの章に分けて編まれた.世界遺産には,人類が過去から受け継いだ文化と自然を守り,未来へと伝えていこうとする国際社会の理念が込められている.また,多くの課題に直面する現代社会において,世界遺産は持続可能な社会のあり方を考える重要な手がかりともなっている.読者が世界遺産をより深く理解し,その価値と課題について主体的に考える契機が生まれることを期待している.