反ユダヤ主義――ユダヤ人をめぐる激動の歴史のなかで、人々がこの言葉に込める意味もまた、大きく変化してきた。
世界のユダヤ人の大多数がヨーロッパに住んでいた頃から2度の世界大戦とホロコーストを経て、かつてこの語は(主に左派が)人種差別への普遍的な反対を表明する際に使われていた。
しかしその後のユダヤ人居住地の中心はイスラエルとアメリカに移った。両国の国際政治における存在感や武力・経済力が著しく強まった現在、イスラエルの政策への批判は「新しい反ユダヤ主義」として(今度は主に右派から)糾弾されている。犠牲者のポジションは隠すべき恥から手に入れたい強みへと変わった。〈反ユダヤ主義〉はいまや、パレスチナの凄惨な情勢に対する抗議を封殺し、大学の自治へ介入し、まっとうな議論を妨げるための政治的な思想戦争の道具にされている。
この用語は思想そのものではなく思想の代用品である。その意味の変容をめぐる混乱を解きほぐすには、歴史的文脈の経緯をたどることが必要不可欠だ。19世紀後半から今日の状況に至るまでの世界の様相と思想の変遷を、現代史の泰斗がテンポよく、かつ慎重に整理し、明日の対話への足場を固める。