形なす色彩、装飾するデザイン
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第一次世界大戦前のヨーロッパは、新しい世界の舞台をデザインしようとするアヴァンギャルド芸術の熱気に包まれていた。フランスではパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックが対象の形を分解して再構成するキュビスムを展開し、アンリ・マティスらフォーヴィズムの画家たちは鮮やかな色彩とともに自然の再現から解放された「形」を生みだした。ドイツでは表現主義の芸術が強烈な色彩と歪めた「形」に感情を爆発させ、イタリアでは未来派がダイナミックで流動的な「形」で都市や機械のスピードや運動、エネルギーを表わした。イギリスでは、ウィンダム・ルイスが率いたヴォーティシズムの画家たちがパワフルな幾何学的形態を描きだした。オーストリアのウィーンでは、ギュスタフ・クリムトが装飾のなかに身体を様式化し、エゴン・シーレはエロスのなかで痙攣するような身体を描いた。そして、北欧のノルウェーではエドヴァルド・ムンクが不安や孤独を「形」に刻みこみ、デンマークではヴィルヘルム・ハマスホイが静かに佇む女性の身体を通して空間のノイズを鎮めた。このように戦前のアヴァンギャルド芸術にとって、「形」とは、壊し、つくりなおすべきものであった。このような「形」をそれぞれに模索して創出した画家・デザイナーをとりあげ、美術とデザインの交差する造形実践をたどる。
マティスはバレエ作品の観客を巻きこんだ舞台空間を装飾/デザインし、「動き」をはらんだ抽象的な「形」を登場させた。コーオ・クリントらのデザイナーは「機能的伝統」を重視し、バウハウスのモダニズムとは一線を画する家具を制作した。ゾフィー・トイバー = アルプとジャン・アルプは協働して、前者の幾何学的抽象と後者のバイオモルフィズムを際立たせつつ重ねあい、「偶然」が左右する不定形な断片としての「形」を現わした。ベン・ニコルソンは手の痕跡が残る画面上でマグカップや水差しなどの日用品の「形」に迫った。ウィーン工房のヴァリー・ヴィーゼルティアーら女性デザイナーは斬新な造形と釉薬使用で陶芸に表現を喚起する「表現的陶芸」を生みだし、芸術と工芸の境界に挑んだ。そして、ルーチョ・フォンターナは抽象彫刻とセラミック、着彩テラコッタの形を通して空間へと接近した。
第一次世界大戦後、芸術家とデザイナーは、崩れ去った世界の多様な「形」を思いだそうとし、あるいは「形」のうごめきをとらえようとした。本書はそんな彼ら、彼女らがカンヴァスや紙、粘土、木材などの前にして、「形」を描き、彩り、整え、破り、組みあわせる過程をみつめる。失われた世界の「形」を、ふたたび舞台とするために。
目次
プロローグ 形と色彩を創る  山口惠里子
第1章 アンリ・マティスによるバレエ・デザイン──「装飾」と「デザイン」の交差と融合 大久保恭子
第2章 戦間期デンマーク家具の展開と古代様式の伝統  萬屋健司
第3章 ダダと抽象を超えて──ゾフィー・トイバー = アルプとハンス(ジャン)・アルプの芸術上の〈協働〉  河本真理
第4章 マグカップと水差しとゴブレットと──ベン・ニコルソンによる「モノ」の形象 一九二〇~三二年  山口惠里子
第5章 革新か災難か 戦間期のウィーン工房陶芸作品──ヴァリー・ヴィーゼルティアとその仲間たち  池田祐子
第6章 量塊の克服から彫塑される空間へ──一九三〇年代における空間主義 -Spazialismo- の萌芽  巖谷睦月
エピローグ 形と色彩を贈る  山口惠里子
註
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