消滅危機言語が注目され始めたのが2000年ごろだ。その際いくつか書籍が刊行され、消滅の実態が明らかになった。それらを踏まえ、本書では、言語学の基本的な考え方から消滅危機言語において何が問題かを明らかにしていく。言語が消滅するにしても、そもそも2つの言語AとBが区別されるのはなぜ、という初歩的な観点から始めまる。たとえば2つの言語を話す人にしても、あいさつをすることはできるがそれ以上のコミュニケーションはできないとか、同じ英語の話者同士でも文化的背景の違いにより意思疎通がうまくいかない場合があるとか、それでは方言の場合はどうなるかといったことを説明していく。ただし、この本は言語の違いを言語学的に説明して消滅の事実をあげ危機だと叫ぶだけのものではない。なぜ言語が消滅するのかを、その言語を使用する人口の減少といった自然現象だけでなく、社会的観点からも追求していく。
世界には7,000の言語があるという。この言語の58%、つまり約4,000の言語が消滅の危機に瀕している。消滅の危機に瀕している言語がどのような場所で見られるのか、現代のデジタル社会でどのような状況にあるのか、なぜその言語が使われなくなったのか、あるいは、書き文字としてのみ残った言語がコミュニティでどのようにして改めて言語として取り戻され、強く維持することができるのか、などについて論じている。著者はまた、言語の継続がコミュニティや個人の健康や幸福に与える影響、文化継承における言語伝達の重要性、そして言語の権利が本質的に人権である理由についても説明する。
アフリカには多数の言語があるが、消滅の危機は少ない。それに対して中南米の言語は消滅間近だ。この違いは搾取型の植民と入植型の植民の違いによるもので、後者は支配する側が入植し言語を変えてしまったため消滅してしまう。国ごとの同化政策により使用言語が制限されるためでも消滅は起こるし、主流言語による経済的な格差があるため、たとえバイリンガル教育をしても、十分なものでないことからも、先住民の言語は消滅する。これは手話においても起きている。先住民が自らの言語を利用できる環境を維持することで自殺率が減少した事例もある。性差が言語に与える影響、インターネットに対応している言語の問題、社会的場面における多言語の使い分けの意味、つまり複数の言語を使うことで、先祖との共通性の維持などの重要性に言及していく。
あらゆる言語が、個人、コミュニティ、そして私たちの世界の活力と幸福にきわめて重要な役割を担っていることを、力強く思い起こさせてくれる。