英国の詩人ジョン・キーツの手紙を出典とする「ネガティヴ・ケイパビリティ」は,不確実なものや未解決のものを受容する能力を記述した言葉で,それに対処する方法として近年,精神医学や臨床心理学の領域のみならず,ビジネスや社会生活においても多くの注目を集めている。わが国において作家で精神科医でもある帚木蓬生は,「論理を離れた,どのようにも決められない,宙ぶらりんの状態を回避せず,耐え抜く能力」と定義付けした。
ネガティヴ・ケイパビリティという言葉を臨床領域に持ち込んだのは,ウィルフレッド・ビオンである。本書で著者は,卓越した精神分析家ビオンが,この言葉を深く理解し,自身の臨床体験に実践応用していた過程を詳述する。さらに関連する概念として,「セレンディピティ(serendipity);偶然と叡智によって,未知の探してもいなかったものを発見すること」にも論及し,治療における行き詰まりや破局への対処についても述べている。その結果,優れた臨床的姿勢としてのネガティヴ・ケイパビリティを身につけることで,困難な状況に直面した際も事態を冷静に取り扱うことができるようになることを述べ,精神分析におけるネガティヴ・ケイパビリティとは何かを論じている。