臨床心理学は「つながり」を書くことができていたのか?
「つながり」は心と社会が重なるところに生ずるが、心を見ようとすると社会は見えなくなる。「心か、社会か」の分裂から「心も、社会も」の複眼への移行のためには、まずは現場を書くことだ。臨床現場という社会的フィールドを臨床家としての日々体験を内側から書くことによって、臨床心理学は新しい言葉を生み出すことができるのではないか――?
2つの方法論が本書の方向性を指し示す。方法論Ⅰ「臨床エスノグラフィーとは何か――社会論的転回序説」(東畑開人)では、「第1部-臨床心理学の閉塞」「第2部-臨床的介入としての研究論」「第3部-臨床エスノグラフィーとは何か」を通じて、臨床エスノグラフィーの理論的基盤がマクロ+ミクロの視点から描かれる。もうひとつの方法論Ⅱ「研究会とはなにか」(山崎孝明)は、本書のマトリックスとなった「ありふれた臨床研究会」の運営(マネジメント)の苦闘と創意が臨場感あふれる筆致で報告+考察される。
実践篇にあたる第2部「臨床エスノグラフィーズ」は、4つの小さなセクションから構成される。「つながりを書く」では現場におけるつながりのリアリティとつながるための知が、「組織を書く」では管理者という立場からケアを提供するための知が、「地域を書く」では施設を越えた地域コミュニティ単位におけるつながりの臨床が、「心を書く」では事例研究法には書けなかった断片的臨床風景から知を立ち上げる試みが、緻密な論考と共に描かれていく。
臨床家の一人称目線で心と社会を同時に描くこと、文学的想像力を賦活して現場を書くこと――今まさに生まれつつある新たな知=臨床エスノグラフィー方法序説。