信州の山々には春を迎えると、残雪の山肌に人や動物、花などの形に見立てられる「雪形」が浮かび上がります。雪形は全国に見られますが、北アルプスを望む松本平や安曇野、白馬、中央アルプスを擁する伊那谷など、とりわけ信州は、雪形文化における最も代表的かつ先進的な地域として知られます。山国の厳しい気象条件の中、伝承されてきた雪形の多くは、里で農作業の時期を知る目安として信頼が寄せられてきましたが、その役割が薄まった今でも、先人の生きざまや人生観が込められ、見て楽しむことを含めて地域文化として大切に息づいています。
著者(1944~2026)は、自然写真家で信濃毎日新聞社の元写真記者。県内各地の雪形を1970年代からライフワークとして追い続け、その成果を2013年~16年、情報紙「松本平タウン情報」(現MGプレス)紙上で計60回連載しました。同連載では伝承76態、ニューフェース50態を紹介。本書は同連載を再構成、加筆修正して書籍化したものです。雪形に関わる地域の人々との対話や、その姿をカメラに捉えるまでの臨場感あふれるドキュメントも盛り込んでおり、単なる雪形ガイドにとどまらない、著者の雪形人生、半世紀の集大成とも言えます。
雪形研究では、安曇野市を拠点に活躍した写真家・田淵行男さん(1905~89)が有名ですが、著者は生前「田淵さんほか雪形を語れる人の多くがいなくなってしまった今、自分が継承しなければならない」と強い思いを語っていました。本書はその遺志を体現した、唯一無二の記録です。