7年の不登校を経て、独り静かに世界を見つめてきた詩人・華道家による初小説。
神社を照らす日々満ちゆく月と、清冽な詩的叙述で紡ぐ物語。
――静寂のなかで世界と出会い直し、言葉の光を灯す。
長期の不登校。社会や他者との隔たりの中で、独り静かに自らと世界を見つめ続けてきた著者が、長年の孤高な省察と研ぎ澄まされた詩的感性を結実させた待望の文芸デビュー作。
【あらすじと世界観】
舞台は、静謐な空気が漂う夜の神社。
暗闇のなかで日々少しずつ形を変え、世界を静かに照らし出していく「満ちゆく月」。
世界の輪郭を遠くから見つめていた主人公の揺れ動く内面が、神社という静謐な空間、アケビと呼ばれる半透明な画家とかって天女であったと言われる祖母と淡く交流し、そして夜空に浮かぶ月の光と重なり合っていく。
著者は詩人としての言葉の息遣いと、華道家として空間に生け花を立てるような凛とした静寂の「間」を抱えながら、ひとつの物語を紡ぎ出した。
描かれるのは、過剰なドラマや易しい言葉による慰めではない。独りきりで世界と向き合った者だけが知る、冷たくもどこか温かい澄み切った空気感――まさに「清冽」と呼ぶにふさわしい詩的叙述である。
【本書の光る魅力】
本書に流れているのは、決して過去の傷を悲劇として語る視点ではない。絶望や孤独の底で見出した「世界の脆さ」に対する、静かな全幅の信頼である。
華道における「無音の音」や「空間の余白」のように、一行一行の行間から立ち上る透明な情景描写が、読者の心に深く染み渡っていく。
孤立や生きづらさを抱える現代において、本書は静かに寄り添い、暗闇の中で満ちゆく月のように、そっと足元を照らしてくれる一冊となるだろう。生け花が空間を一変させるように、言葉によって開かれる新たな文芸の地平。詩人・華道家・末富晶が解き放つ、美しくも切ない初小説。