企業はだれのものか、企業を支配するのはだれか、あるいは社会的な広がりを持つ現代の巨大企業をだれが、どのように規制するのかというコーポレート・ガバナンスの問題が、現在各国で活発に議論されている。商法改正に見られるように日本においても焦眉の問題である。この問題は、決して新しいものではなく、所有と経営の分離現象を根拠に経営学の基本問題としてその生成期より議論されてきた。しかし今日のコーポレート・ガバナンスの議論においては、単に出資者と経営者の関係だけではなく、より広範に利害関係者と企業の関係を視野に入れて議論が展開されており、巨大企業におけるトップ・マネジメント組織のあり方、あるいは経営者に対するモニタリング機能のあり方が問われている。
ドイツではこの問題は、企業体制という概念において法学ではすでに1950年代より取り上げられており、また経営学においても1970年代に経営参加の拡大や大企業における所有と経営の分離現象の進展に伴って活発に議論が展開されてきた。そこでは企業をさまざまな利害集団より構成される社会構成体として取られることによって、所有者の利害一元的な権限を規制する問題や従業員の所有権に基づかない支配の問題が解明されている。
ドイツでは周知のようにトップ・マネジメント組織が監督機関である監査役会と業務執行機関である取締役会の重層構造になっており、共同決定法の下ではこの監査役会に資本側と労働側が同数参加している。しかも資本側代表監査役の中には、個人・法人の大株主以外にも寄託議決権制度に基づく銀行の代表が参加しており、監査役会議長のポストを占める場合には、産業企業に対して影響力を行使することができる。また労働側には企業外部から労働組合の代表が監査役に入るほか企業内部の経営協議会の代表も監査役のポストを占める。そこで本書では出資者、経営者、従業員、銀行をコーポレート・ガバナンスに関わる重要な利害集団として検討し、これらの利害集団が、ドイツのトップ・マネジメント組織のどのような機関をとおして自分たちの利害を主張し、企業をガバナンスしているかが解明される。それによってドイツ型コーポレート・ガバナンスの特徴が明らかになるであろう。
またドイツ型コーポレート・ガバナンスは、国家レベルではなくEUレベルの法人であるヨーロッパ株式会社のコーポレート・ガバナンスにも少なからず影響及ぼしている。この点についてもその経緯を歴史的に跡付けることにする。