灰桜

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きりさめはちぎれちぎれにふりつづく鶴のくろき足首ふつと消えたり



鳥や蛍などを題材としつつ、夢か現実か分からない不思議な歌が生み出されている。

こうした歌に、植田さんの独自性が最も表れているのかもしれない。

これらの歌にも、居なくなってしまったもの――不在なる者――の気配が漂っている。

 吉川宏志(歌人)




【歌集より】



ベトナムの反戦運動のアジトには饐えたる熱の匂ひが籠りき



ガルガンチュアの講義を隅で聴いてゐたシダーの木椅子に凭れかかつて



亡きひとの息の溜り場あるといふ耳のまはりの気圧が低い



麻布にくるみし鶴の胸肉は月のごとくにひんやりとして



灰桜だと思ひけり骨壺の木箱の角が乳房を突つく



はなひらが湧きたつほどに冷ゆる昼母なき部屋に母をさがしぬ

目次
Ⅰ 章

 1970

 日蝕

 夢にわけ入る

Ⅱ 章
 鶴わたる
 八月 台北
 青島(チンタオ)
 泡となりさう
 ひんやりとして
Ⅲ 章
 新春詠三首
 熊野
 したたりてをり
 鵜
 潮垢離(しほごり)
 山蘆(さんろ)
 高野山
Ⅳ 章
 朱墨屋
 うつせみ
 撃つ
 かぼちやが行く
 おぼろを
 霾(つちふる)
 がんもどき
Ⅴ 章
 ゆきのすきま
 うぶすな
 くれなゐの
 曼荼羅のほどけて
 ペパーミント
 石鹸
 朱の玉
 灰桜
 白蝶の湧きゐる



解説  吉川宏志



あとがき

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