18世紀に始まる産業革命により近代的工業生産が展開,農村から都市への人口集中は,穀物需要を急拡大させた。イギリスは世界最大の穀物輸入国になり,食料全体の輸入量は1850年代から半世紀で8倍に達し,輸入額全体の4割に当る。1873年には小麦の輸入量が国内生産を上回り,輸出国はポーランドなどバルト海からアメリカ大陸に移った。1880年頃には合衆国についでカナダも新たな供給地となる。これら穀物輸出の増加は,合衆国の大平原開拓,カナダ・プレーリー開発や大陸横断鉄道の敷設などに多大な影響を与えた。さらに20世紀になり第一次大戦までは英国人移民の急増と巨額の英国資本の投入が大規模機械化と化学肥料の普及を促した結果,激しい小麦価格の変動をもたらす。その中で新たにオーストラリアが参入し連合王国を形成した。
1930年代には高温による干ばつと連作で乾燥した表土が風で飛散し,農業生産への打撃と人々に甚大な健康被害を与えるダスト・ボウルが発生している。土壌の劣化と破壊そして土壌漂流と侵食により,土地の肥沃度は減退し,略奪農業の実態が顕在化した。
産業化が始まって2世紀余り,英国に象徴される輸入国の消費者が,輸出国の農業者の抱える困難に対しいかに無関心であったか。70億の人口が100億になると予想される今日,食糧問題は人類存続の主要課題となった。
本書は輸出国の視点で土壌保全や水問題,移民,資本などの歴史的実態を解明し,未来の課題を提示する画期作。