著者は中学二年生の時に惨めな敗戦に直面し,日本は欧米の高い文化を学び,新しい可能性を探求する以外に未来はないと確信した。それが80年に及ぶ研究と生活の原点となった。英語力を鍛えることから始め,高校時代は日本文学に馴染み,キルケゴールにも魅かれた。大学では外国文学を耽読し,経済学部に入るも思想への関心が高まり哲学科に移り,アウグスティヌスやルターに親しんだ。とくに約8000頁におよぶギボンの『ローマ帝国衰亡史』の原書を半年かけて読破したことで,語学とヨーロッパ理解の扉が開かれ,以後原典を中心にした研究の軸が定まった。
古代から中世,中世から近代というヨーロッパの二大転換期を代表するアウグスティヌスとルターを中心に,ヨーロッパ思想の研究に参入した。大学院では「アウグスティヌスの心」を執筆,就職してから刊行した処女作『ルターの人間学』で若くして学士院賞を受賞,大きな反響を受けた。
家族の話題や葛藤,友との楽しく豊かな交遊,キリスト教との出会いなどのエピソードからひととなりが伝わる。
著作と訳書は130冊ほどに及ぶが,哲学とは何か,ヨーロッパ思想とは何か,そして宗教改革についてが多い。実存主義に始まり,助手時代にカントとヘーゲルの著作を徹底的に読んで学問的作法を身に付け,以後古代から現代に至る多くの著作に親しんだ。なかでもマックス・シェーラーやブーバーを独自に研究,対話と間主観性を基礎に「人間学」を主軸としたヨーロッパ思想史研究に新境地を開いた。
90代の半ばを迎えた現在,日本文学を再読し固有な日本文化の探求に旅立った。若い読者や専門家にも有益な自叙伝。